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第十話 祖父の田舎
学生のJさんには、田舎で暮らしている祖父がいた。
前は祖母と2人で暮らしていたが、祖母が亡くなってからは1人で住んでいた。
家自体は地方の旧家という感じでなかなか広く、都会で生まれ育ったJさんからすると信じられないぐらいの敷地面積だった。
居住空間の他に特に使われていない離れもあった。
「子どもの時にはよく遊びに行っていましたが、うちの親と折り合いが悪くなってきて、行くのも数年に1度ぐらいの割合になってきていました」
Jさん自身は祖父にかわいがられていたので、少し寂しさを感じることもあったという。
そして、祖父が亡くなったとの知らせが届く。
葬儀がつつがなく終わったものの、Jさんの両親や親戚は祖父が最期まで住んでいた家をどうするかという問題に直面した。
遺産相続の話についてはJさんはあまり立ち入れなかったという。
形見分けでもないが、家の遺品から必要なものをてんでに取っていけることになった。それが住んでから取り壊しの算段となる。
ちょうど夏休みの時期であり、Jさんは好奇心からその家に1人で泊まってみることにした。
晩ご飯までは両親と共に食べ、一晩寝て翌朝に両親が迎えに来るというだけの話だった。
泊まることにしたはいいものの、両親が去り特にやることもない。Jさんは昼間に家の中を見て回っており、夜は布団を敷いた部屋でスマホをいじっていた。
廊下に何かの気配がした。かすかな足音もしたように思った。
「だ、だれ?」
Jさんが問いかけるが返事はない。
廊下へ通じるふすまを開ける。
そこには、黒猫がいた。
ホッとするJさん。しかし、猫が何かをくわえているのに気づく。
「何、くわえてるのかな?」
Jさんが近づくと猫はそれを廊下に落とし、そのまま逃げて行ってしまった。
確認すると、人間の指であった。
「ひいっ……」
驚くJさん。身体から離れて時間が経ったのか、乾燥しているように見えた。
祖父のものではない。亡くなった祖父の遺体には指はあったはずだった。
両親を呼びたくなったが、指の出所が気になった。Jさんは黒猫が逃げた方向に目をやる。
姿が見えた。そこは、離れだった。
庭を通って小さな建物まで辿り着く。黒猫は姿を消していたが、Jさんは戸を開けて中へ入る。
昼間にも一度訪れていたが、直前の状況と夜の雰囲気によってひどく緊張していた。
電気を付ける。和室があるだけだった。
畳、そしてふすま。
不思議とふすまの中が気になった。昼間にはわざわざ開けてはいない。
Jさんはふすまを開けようとする。固い。何かがつっかえているようだった。
それでも力任せに引っ張ると、徐々にふすまが開き始めた。
すき間から中を確認する。黒い袋が山のようにあった。
昔のゴミ袋だ。ふすまを開けたことで、生臭い匂いが漂う。
Jさんは予感した。
指はこの中にあったのではないか。
そして、指以外の部分もこの中にあるのではないか。
悪寒が背中を駆け抜けた。
Jさんは確かめることをせずに離れから出て、両親に連絡してそのまま帰宅した。
「ふすまの中に何があったのかは、確かめることなく解体業者が全部持って行きました」
Jさんが知るのは、そこまでだったという。祖父が何をしたのかは、もはや闇の中だった。
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