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第十一話 家電量販店のカメラ
Wさんから聞いた話である。
家電量販店に行くと、備え付けられたカメラが店の中を歩く人を撮影し、展示したテレビに映しているという光景に出くわす。
自分の姿がテレビにでかでかと映っているのを観て少しギョッとしたり面白かったりしたものだ。
Wさんも最初はそれを面白がって、テレビに半身だけ映るように自分の位置を調整したり、手だけ出したり足だけ出したりと、子どものような楽しみ方を見つけていた。
しかししばらくしてから異変に気づく。
画面の隅に、人のような影がいるのである。
テレビの反対側は、オーディオ系が陳列されている。
そこより奥の壁に、誰かが立っているのが見えた。
髪の長い女だ。うつむいており、顔が見えない。
全身に黒いローブのような服を着ており、明るい家電量販店の中ではなんとも不気味さが際立っていた。
気になったWさんは振り返り、女がいるはずの位置に目をやる。
そこには誰もいない。
「僕が振り向いた一瞬で移動したのかと思ったのですが」
Wさんは再びテレビに目線を戻した。
すると、先ほどと同じ壁のところに、やはり女は立っている。
ここに及んでWさんはようやく背筋がぞくりとしたという。
再び後ろを振り向くと、やはり女はいない。
誰かにこのリアルタイムで起きている現象を話したい思いに駆られた。だが周囲に店員も客もいない。
「人を呼びにその場を離れると、女が消えてしまうように思ったのです」
Wさんは思い返してこう言う。
しばらくテレビと壁を交互に見ながら時間が過ぎた。
さらにWさんを戦慄せしめることが起こる。
画面の中の女が、近づいてきているのである。
壁にピタリとくっつく位置にいたはずの女が、今はオーディオ機器の真横に来ている。
画面を凝視しても、女が動いているようには見えない。
「ひ、ひえっ」
画面を見続けるWさん。
これまでを考えると、振り返っても女はいないはずである。
だが、もし今振り返って女が真後ろにいたら、どうする?
そう思うと、これまでのように後ろを振り向くことができなくなってしまった。
店内では放送やBGMが流れているはずなのに、不思議と無音だったように感じられた。
Wさんはついに意を決して、一気に後ろを振り向いた。
誰もいない。
ほっとしてテレビの方を再び向いた。
画面いっぱいに大口を開けた女の顔が映っていた。
「うわああっ!」
腰を抜かしてしまうWさん。
そのままの態勢で後ずさりし、テレビの前から離れた。
しばらくして店員が駆け寄ってくる。
「す、すみません。ちょっと転んで足を打ってしまって」
そう言ってごまかし、彼は急いで店を後にした。
その後、この店には行っていないという。
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