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夏は嫌いだ。ショッピングモールにカフェそしてプールにだってリア充が溢れている。
この一文から始まるとまるで私が彼氏いないように見えるので先に言っておく。私には、かれこれ3年付き合ってる彼氏がいる。今だってすごくラブラブだし、彼はきっと私のことを愛してる。
でも、私たちの間に夏の思い出はほとんどない。別にイベントごとが嫌いなわけじゃない。秋には、2人で仮装して渋谷に行くし、クリスマスには高級ホテルに泊まって聖なる夜をたしなむ。お正月には2人で袴を着て初詣に行くし、春にはお花見をして、梅雨にはお揃いの傘で紫陽花を見に行く。
けれど、夏にはほとんど思い出がない。
何故か。答えは簡単だ。私の彼氏は代々続く花火師の一人息子だから。
毎年、夏になるとあちこちで引っ張りだこになる祖父や父の見習いとして、、花火の打ち上げに携わっている。だから、とても忙しいし、頑張っている彼を見てデートになんて絶対に誘えない。いつでも時間を割くよなんて言われても、頑張ってる彼氏を応援したいから誘えない。
だから、花火大会はいつも1人か友達と。周りがリア充ばかりで寂しいこともあるけど、彼の花火を見た瞬間心が浄化される気がした。
今日は、この夏最後の花火大会。この辺りじゃ大きい方のお祭りだから、みんな彼氏と行くと言って誰も捕まらなかった。でも、彼の花火を見ないわけにはいかなくて、1人で会場に向かう。
はぁ、夏が終わるなと少しの寂しさと大きな安堵のため息が漏れた。そろそろフィナーレというところで、珍しい花火が空に弾けた。円の中には笑う顔。どこかの子供がそれを見て『ニコちゃんだ!』と叫ぶのが聞こえた。その次の瞬間、真っ赤なハートの花火が上がる。
スマホの着信音が鳴りメールを開くと彼からメッセージ。
「にこ、花火見てる?夏は、忙しくてごめん。にこのために花火を作ったんだ。ニコちゃんマークの花火。にこの花火だよ。その次のハートは君への愛を込めたんだ。」
その文面に私は、1人しゃがみ込んで泣いていた。
これが、日本のスマイル花火の起源である。
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