あたたかい腕

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 なにが運命よ、誰もが勝手なことを言って。私の生き方は、私が決める──。    長い廊下を歩く、ミーナの表情は険しい。  すれ違う使用人たちは、よそよそしく会釈をしてくる。  まるで腫れものだ。怒りに寂しさと虚しさが混じり合い、やり切れない気持ちになる。  逃げ込むように自室のドアを開けたミーナは、驚きの表情を浮かべた。しかしそれはすぐに、一層険しい表情へと変わる。 「ミネルバ姉さん、なんの用かしら」 「ミーナ、さっきのお父様のお話だけど」 「聞きたくもない。目障りよ、帰って」  吐き捨てるような言葉に、ミネルバは苛立ちを露わにした。 「いい加減に自覚しなさい! あなたももうすぐ大人になるのよ!」 「お姉さんはいいわね、いつもチヤホヤされて」 「子どもみたいなこと言わないの! そんなことでは、これからこの家を継ぐ者として」 「やめて」  精一杯の低く重い声を発した妹を、ミネルバの鋭い目が、じっと見据える。 「なによ、早く出て行って」  挑発的な言い草に、ミネルバは眉間に皺を寄せ、肩を震わせた。 「ミーナ、聞きなさい! あなたはこの家を継ぐ者として──」 「……姉さん?」  ミネルバの足がふらついた。  ミーナは慌てて駆け寄ると、細いミネルバの体を支え、椅子に座らせた。  この家の跡取りは、長女であるミネルバに決まりかけていた。しかし成人を間近に控えたころ、奇病が襲いかかったのだ。  姉とは対照的に自由奔放に育てられてきたミーナの運命は、そこで大きく変わった。  両親は、毎日のように学問やら身の振る舞いやら、常識やらを叩き込んでくる。  幼いころからやさしかった使用人たちは、両親の目をおそれてか、そんなミーナを助けてはくれない。    挙げ句の果てに、父は今日ミーナに言ったのだ。 「これも運命だ。おまえもミネルバのように受け入れろ」
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