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「私の運命の人!」
ちんちくりんな女の子が僕にいった。
「え?」
「私、私寂しかった。でも、やっと逢えたね」
女の子が潤んだ瞳で僕を見上げる。見た目は年長ってところか。ピンクのTシャツに可愛らしいフリルのスカート、お下げ髪が顔の横で揺れている。下校途中だった僕は困惑した。
「えっと、君は誰かな?お母さんは?」
辺りに親御さんらしき姿はない。見掛けない子供だが、近所の子だろうか。
「私よ、分からないの?あなたの恋人のアスカよ」
女の子が制服のズボンにすがりつく。
「恋人って……、ああ、わかった。そういう遊びか。でも、ダメだよ。知らない人に話しかけちゃ」
僕はしゃがんで女の子の頭を撫でた。大きな両目に涙を溜めてこちらを見つめている。
「覚えてないの?あなたは宗一郎!私たちは永遠を近いあった仲じゃない」
迫真の名演技にたじろいだ。きっとこの子は将来女優になるんだろうな、そんな事を考えていると、エプロン姿の女性がすっ飛んできた。
「真凜っ、ダメじゃない、勝手に外に出ちゃ!」
「あ、お母さんですか」
「はい、ごめんなさい。少し目を離した隙にこの子ったら……。何かご迷惑をお掛けしませんでしたか」
僕はいえいえ、と、首を横に振った。
「いきなり話しかけられたから驚いたけど、迷惑だなんて、そんな」
女性はすみません、すみませんと何度も頭を下げ、女の子の手を引いた。
女の子は必死に僕に手を伸ばして抵抗する。
「宗一郎、どうしてっ。やっと逢えたのに……、宗一郎!」
ポロポロと涙を流して呼びかける女の子に、僕は笑顔で手を振った。まだ「ごっこ遊び」を続けてる。駄々をこねる女の子に業を煮やした母親が抱きかかえた。もう一度こちらに頭を下げて、近くの家へ入っていった。
僕が宗一郎、だっけ?ずいぶんと古風な名前の設定だな。今度また会ったら「ごっこ遊び」に付き合ってあげようかな。そんな風に思いながら、僕は帰路についた。
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