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「僕の運命の人!」
一目見た途端、僕は直感した。姿形がいくら変わろうとも見紛うわけもない。アスカだ。
「やっと、やっと逢えたね……」
僕が感極まって泣き崩れそうになるのを、アスカはキョトンと見つめている。
「僕が分からないのか?僕だ、宗一郎だよ」
アスカの体に触れようと手を伸ばす。アスカは驚いた様子で身を躱し、素早い動きで逃げ出した。
僕は必死でアスカを追いかけた。やっと逢えたんだ。数百年の時を経て、ようやく再開出来たんじゃないか。逃げないでくれ。
アスカは塀を超えて民家の庭先に逃げ込んだ。僕はアスカを探して玄関先から回り込む。悲鳴があがった。
「あなた、誰ですか。不法侵入ですよ」
ホースで庭に水を撒いていた中年女性が怯えた目を向ける。そんな事はどうでもいい。それよりアスカは――。
アスカは女性の足元に隠れていた。丸くなって全身の毛を逆立てている。
「どうしたというんだ。アスカ、君はアスカなんだろう」
「な、何を言ってるんですか。この子はウチの飼い猫のマメよ」
黒猫の姿に転生しても僕には分かる。君は僕の、永遠を誓い合った恋人アスカだ。
「ち、違うっ」
突然、後ろから羽交い締めにされ、押し倒された。背中で腕を絞られ、腰を膝で抑えられ、あっという間に微動だに出来なくなった。
「警察の方ですか。この男が急に庭に入って来て――」
女性が訴え出る。
「ええ、巡回中、猫を追い回す不審者を見つけたので見張っていたのです。お怪我がなさそうで良かった」
「ふざけるな!」
僕は渾身の力で身を捩った。
「アスカ、助けてくれ。そしてまた、僕と二人で暮らそう」
アスカは黄色いガラス玉のような目を、僕からふいっと逸らした。そんな、またなのか――。
「コラッ、暴れるんじゃない。奥さん、危険です。下がって。お前、薬物でもやっているのか」
僕の両腕に冷たい輪っかが嵌められた。すぐにもう一人の警官が現れ、二人がかりで無理矢理その場から連れて行かれる。
僕は叫んだ。泣き叫んだ。アスカはもう僕を見ようともしなかった。
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