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俺の暮らす土地では、昔からの風習で、お盆の時期になるとどこの家庭も、玄関先にいくつかの提灯を吊るしている。
とはいえ、提灯の中身は空で、そこ明かりを灯すことはない。
火を入れれば、それを目印にご先祖様が戻ってくる。そういう話はよく聞くけれど、この辺りで盆提灯に明かりを灯す家は一つもない。ただ、どこの家庭も、提灯に敗れやほつれがないかは念入りに確かめる。
その理由を、この前俺は初めて知ったよ。
真夜中、たまたま何かの弾みで目が覚めた。
いつもならまたすぐに寝てしまうのに、何故か目が冴え、俺は部屋の窓から外を見たんだ。
町中に、ぼんやりと薄い明かりが灯っていた。
田舎町で、こんな深夜まで開いているような店はないし、どこの家も早い時間に明かりを消す。街灯だって少ない。なのに町全体がぼんやりと薄明るく光っているのだ。
それを不思議に思っていたら気づいたよ。各家庭の玄関に吊るされている提灯が光っていることに。
電灯も蝋燭も他の何も入れていない、空の筈の提灯。それらが薄くではあるが発光している。でも中には、暗いままの提灯が稀にあった。
その位置を何となく覚えていて、翌日、そこの家の提灯を確かめたら、提灯に破れるあるのを見つけた。
それから程なく、その家では、些細だが色んな不幸が重なったと聞いたよ。
俺の推測だけれど、この土地の盆提灯には、帰ってきたご先祖祖間が宿るんじゃないかな。そもそれが破れていたりほつれていたりすると、霊がいつかず外に出て、それで家に災いが起きる。そんな気がするんだ。
盆提灯をきちんとした状態にしておくのも、ここいらなりのご先祖供養なのかもしれないな。
迎え火を焚いてから送り火を焚くまで。今夜もうすぼんやりと、ご先祖様の霊が宿っているだろう盆提灯は光り、揺れる。
盆提灯…完
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