文庫パンの彼女

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 何かを思い出したかのように、秋が冬の入口へ向かって走り始めた頃だった。  うつむき加減で歩いていた僕は、家の近所の路地で、一人の女の子に出会った。彼女は何故か文庫本をくわえたまま、きょとんとした顔をこちらに向けていた。  いや、よく見ると、それは文庫本ではなくパンだった。食パンよりは一回り小さく、厚みは八枚切りくらい。小麦色の耳の部分はなかった。逆に側面の生地は白っぽくて、表面の方が全体にうっすらと小麦色に焼かれていたから、ちょうどカバーを纏った本みたいに見えたのだ。
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