星型ロボットと、未来のおくすり

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 星型ロボットのエブリンは、ソファーに寝転がり小説サイトの作品を読んでいた。   「なぁエブリン、俺やっぱり無理だわ」 「そんなことないよ、まだはじめたばかりじゃん」  エブリンは起き上がると、吉郎のパソコンをのぞき込んだ。昨日と変わらず最初のページが開かれている。 「吉郎くん。これ、字が違うよ。武士の士じゃなくて、教師とか牧師の師だよ」 「マジかよ。俺、ついにこの字まで間違えてしまったのか」  吉郎は頭を抱え込んだ。間違えたのは薬剤師という文字だった。  つい最近まで目指していた職業だ。 「仕方ないよ。予測変換がまだ未熟な時代だし、何度も打ち直したらいつか失敗するよ」  エブリンは励まそうと思い、例をあげた。  たとえば今読んでいるサイトの桜井という男の作品は、誤字のオンパレードで、読んでくれる人からいつも指摘を受けている。 「この人、あらすじから漢字のミスをしてしまったこともあるらしいよ」  吉郎はあきれたように笑った。 「重症だな、そいつ」 「うん。本人も諦めてる。何か良いおくすりでもないかって、ありもしないことをほざいてる」 「辛口だなぁ、エブリン」  エブリンは首を横に振り、人差し指を立てた。 「それが一番いいおくすりになるからね、こういうどうしようもない人には。まぁこんな人でも書けるんだから、やってみようよ」 「そっか。うん、なんかできそうな気がしてきたわ、俺」  吉郎が再びキーボードを打ちはじめると、エブリンはソファーに戻りほほえんだ。  首からさげたエンブレムがほんのりと光を放っている。  作者の思いに反応する仕様だ。エブリンは、これを吉郎に渡す日を心待ちにしている。  薬剤師の夢を諦めた吉郎は、エブリンに言われ、小説を書いている。
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