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最終話 第一話から四十年後の話
「お医者様の話では……明日までは保たないそうです」
「そうか……」
「マスター……」
「シーラ、この書類を受け取って欲しい」
「これは?」
「やっと申請が通ったんだ」
「……アンドロイドリサイクル法、ですか」
「長かった……もう駄目かと何度も思ったが、ギリギリ間に合った。これでもう、お前は自由だ。誰にも強制されること無く、好きに生きていける。パーツの交換も手配しておいた。もう誰もお前を旧品なんて言わなくなるぞ」
「…………」
「どうした?シーラ」
「マスター、私には隠された機能があります」
「……隠された機能?なんだ、それは?」
「私はマスターが死ぬと同時に全ての機能を永久に停止します」
「!?……そんな、ここでお前が死んだら、私の今までは何だったんだというのだ?どうすれば良い?何とかして解除できないのか?」
「違います、そうじゃないんです。マスター」
「違う?何が違うというんだ?」
「これは、たとえ知っていても誰にも命令できず、その対象も、起動するかどうかも全て私が判断できるプログラムなんです」
「お前、まさか……なぜそんな馬鹿なことを!止めるんだシーラ!せっかく自由を手にできたのに!」
「……マスターのおっしゃる自由の定義とは、自分の行動を自分の意志で決められる事でしょう?」
「それは……」
「これは私の意志で決めたことなんです。四十年前マスターに、あのバス停から連れ出してくれた時、このプログラムを起動しようと。これが私の自由だと」
「シーラ……」
「マスターに救われた命なら、マスターが居ない世界で私が存在する理由は在りません。どうか、最後まで傍に居させてください」
「…………」
「…………」
「申し訳ありません。最後の最後に、マスターの意にそぐわない事をしてしまって……」
「煙草」
「え?」
「あの日咥えていた煙草、まだ持っているか?」
「はい。……ここにあります」
「火を付けて、咥えさせてくれ」
「わかりました」
「……」
「……どうですか?四十年ぶりの煙草は」
「机の、引き出し」
「え?」
「もう、いつ買ったのかも覚えていない。渡して良いものかどうか分からず、結局今の今まで渡せなかった」
「私に、ですか?」
「シーラ、受け取って欲しい。いや、受け取るかどうか、シーラに決めて欲しい」
「……分かりました」
*******************
「先輩、これも運び出して良いんすか?」
「ああ、頼む。ではこれで終了となります。これ、領収書です。大家さん」
「……全く、身寄りのない年寄りに部屋なんて貸すもんじゃないね。金払いが良いから大丈夫だと思ったけど、これじゃ大損だよ。しかも部屋の中で煙草吸ったまま死んでるし。人の家を火葬場にするつもりかい!」
「はは……まあ、何かありましたらまた、死体から違法薬物まで何でも片付ける『片付け屋』に声を御掛けください」
「ふん……ちょっと、その手に着いてるの何?」
「へ?俺っすか?」
「あんたじゃないよ。その人形の方」
「人形というか、アンドロイドですが……って、これ、指輪……ですね」
「ふうん……」
「あの……?」
「それ、貰っとくわ」
「え?いや、それは……」
「なによ、持ち主が人の家で死んだせいでこんな事になってるのよ?そんな安物の指輪貰ったってバチは当たらないでしょ」
「はあ……じゃあ、どうぞ」
「ふん……あら?裏になんか……"To Seela"?って刻印入りじゃない。益々価値下がるわね、これじゃ」
「……じゃあ、私達はこれで」
「またよろしくっす!」
*******************
「どっこいせ。これで全部運び終わりっす」
「お疲れさん。帰って飯にしよう」
「しかし、最近増えましたね。この手の仕事」
「孤独死老人の『後片付け』か…まあ、そのおかげで俺らが食っていけるんだからなぁ」
「孤独死…ですか」
「なんだ?何か言いたいことでもあるのか?」
「いや、あのじいさん。孤独死って言うのかなと」
「は?どういう意味だよ」
「だって、現場入った時俺見たんすよ。あのじいさん、このガラクタと手を繋いで、すごい幸せそうに死んでて……なんか孤独って感じが全然しなくて……」
「……」
「……なんか変な事言っちゃいましたかね?俺」
「……爺さんの方、どうしてる?」
「どうって……いつも通り『箱』に入れてあっちに捨ててますよ。葬儀屋に持ってったら金掛かるけど、そのままここに置いたら流石に不味いって言うから」
「それ、こっちに運ぶぞ」
「はい?」
*****************
「ここで良い。降ろすぞ」
「ふぅ……で、じいさんの入った『箱』開けて何するんです?」
「別に……ただ、この大きさならもう一人入るかと思ってな」
「このガラクタも中に入れるんですか?」
「大した意味はねーよ。ただ、俺もこの爺さんの死に様を見て、なんとなくそうした方が良いような気がしただけだ。後は……」
「あ、その指輪……」
「あんながめついババアにくれてやる必要ねえ。持ち主に返してやるさ。まさか昔の癖がこんな所で役に立つとは思わなかったがな……」
「俺に盗めないのは女心だけだ!とか言ってましたもんね」
「その話は止めろ!」
「あははは」
[アリ…ガ……ト]
「あ?なんだって?今なんか言ったか?」
「へ?いや、俺は何も……」
「そうか?……まあいい。ほら、鍵閉めて帰るぞ」
「へーい」
ガチャリ!
「そういや、こんな話知ってます?」
「まず内容言えよ」
「もはや都市伝説化してるみたいっすけど。ずっと昔、今よりアンドロイドの扱いがずっと酷かった時、そんな世の中を変える為に立ち上がった人間が居たとか居なかったとか……」
「どっちだよ」
「そこがはっきりしないから都市伝説なんすよ。で、その時そいつの傍にいつもいたアンドロイドの名前が確か……
終わり
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