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その女は各地を渡り歩いた。
貧しき者や死にゆく者を見つけては、優しく抱きしめ穢れを取り込み、その身に宿した。
戦い争う者や傷つける者を見つけては、手をかざして穢れを吸い取り、その身に宿した。
人の持つ負の感情や意思――穢れを集めながら、女は世界を渡り歩いた。
あふれるほどの穢れをその身に宿せば、東の果てにある泉へ解き放った。
いつしか東の果ては黒く染まり、あらゆる生命が姿を消した。
穢れの蒐集は、きっと果てなく続くだろう。
いつか、穢れが世界を黒く染めるその日まで。
いつしか、女には一人の子どもが付き従った。
醜く薄汚い、血と臓物の臭いに塗れた、汚らわしい子ども。
言葉も解さず、女の体を貪り喰らう、人喰らいの忌み子。
人々に忌み嫌われたその子を、女は受け入れた。
思うがままに我が身を喰らわせた。
穢れきった女の体を、忌み子は美味しそうに、嬉しそうに貪り食った。その様がこの上なく面白かった。
胸の中で優しく抱いた。
抱きしめて、心の奥深くに根ざした穢れを取り込んだ。世界から拒絶された忌み子が宿したそれは、極上の穢れだった。
故に、女は忌み子を受け入れた。
忌み子はきっと大いに役立つことだろう。誰よりも何よりもおぞましい穢れをずっとずっと出し続けてくれるだろう。
いつか、穢れが世界を黒く染めるその日まで。
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