穢れの魔女

1/2
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ

穢れの魔女

 母はいなかった。女を生んですぐ世を去った。  父はいなかった。母を手籠めにして弄び、孕んだと知った途端に行方をくらました。  生まれてすぐ身寄りをなくした女は、街で一番のろくでなしの連中に拾われた。女に身売りをさせて稼ぐ連中だった。物心がつく頃から調教され、歳が二桁になる前に客を取らされた。  連中は飛びぬけておぞましい奴らで、客は乱暴な変態が多かった。かりそめの愛も偽りの慈悲もなく、嬲り犯しいたぶることに快楽と愉悦を感じる(けだもの)ばかりだった。殴られ蹴られるのはよくあることで、ときには腕や足を折られた。首を絞められ意識をなくし、そのまま犯され、行為の最中に覚醒してまた落とされることもあった。  初潮がきてすぐに孕んだ。日に日に腹が膨らみ、それでも客を取らされた。何をしてもいいから腹には、我が子には手を出さないでくれと、女は泣いて懇願した。どこの誰の子かもわからないが、それでも自らに宿った命を守りたかった。  連中や客から我が子を守り続け、臨月に差し掛かったある日、女はとある一室に監禁された。雇い主と、客と思われる何人もの男たちが一緒だった。  今回の客たちは孕み腹を潰してみたいそうだ。雇い主が告げた瞬間、凶行が始まった。  女は必死に腹を守った。自らの腹を抱きしめ、部屋の隅にうずくまった。  体中を殴られ、蹴り飛ばされる。腕を掴まれ部屋の真ん中に引きずられる。床へ大の字に抑えつけられる。  髪を振り乱し、あらん限りの声を上げて泣き叫ぶ。男たちは嘲笑いながら、持ち上げた足を女の腹へ向けて振り下ろした。踏む。蹴る。踏みつける。蹴り飛ばす。ぐりぐりと踏みにじる。何度も何度も足蹴にする。  男たちの狂った笑いがこだまする中、女の中で弾ける音が響いた。  その意味をすぐに理解した女は、抵抗をやめた。あらゆるすべてを諦めた。  それでも、男たちはやめなかった。激しい暴行はなおも続き、ついに破水した。潰されたものが流れ出そうとしているのを感じた。  もうどうにでもなるがいい。お前たちが潰した命があふれ出るのを見て笑うがいい。すべてが呪われてしまうがいい。  その瞬間、女の股座から、黒い液体が噴き出した。  どろりと粘り気のあるそれは部屋中に飛び散り、男たちに降りかかった。  笑い声が悲鳴に変わり、それも一瞬。男たちは呆けたような顔になり、その場に崩れ落ちた。全員が、死んだように動かなくなった。  何が起きたのかわからず、ただ痛む腹を抑える女の前で、黒い液体が波打った。渦巻いて宙空に浮かび上がり、寄り集まってひと固まりになると――女の胎内へと舞い戻った。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!