人喰らいの忌み子

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 その子は人里離れた森の中に捨てられた。  たちまち獣の餌になるかと思われた。しかし、その異形は獣さえも退けた。  それでも、誰もいない森の中で、息絶えるのは時間の問題と思われた。しかし、その子は異常な生命力を宿していた。生まれて一月で地を這い始め、草やキノコを見境なく喰らった。しばしば毒にあたり死にかけたが、そのたびに自浄しては克服した。  三月で二本の足で立ち、半年で走り始めた。一年が経つ頃には大人顔負けの速度で駆けるようになった。小動物を捕まえ、爪で引き裂き、牙を突き立てて存分に肉を喰らい、血をすすった。  野生を喰らい続けたその子は、みるみるうちに大きく、強靭に育った。視覚、聴覚、触覚――あらゆる感覚が超人的な成長を遂げた。  五年が経ち、その子は生まれた村を訪れた。記憶はない。ただ、多くの肉のにおいを嗅ぎつけただけだった。  そして、喰らった。  見つけては殺し、殺しては喰らい、喰らってはまた見つけて殺した。  十数人が殺され、残りの村人はどうにか逃げ出して周りの村へ助けを求めた。  数日後、武装した村人たちが村を訪れた。  食い散らかされた遺体が、あちこちに転がっていた。
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