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 その子は各地を渡り歩いた。腹が減れば目についた何かを殺し、喰らった。   喰らうのは時に獣であり、時に家畜であり、時に人間だった。  そのような凶行を続け、人間たちが黙っているはずがない。  人喰らいの忌み子として世界から追われることになるまで、そう時間はかからなかった。  襲い来る無数の者たち。忌み子は時に返り討ちにし、時に敗北して逃走した。  傷も癒えぬまま次の襲撃を受け、また新たな傷が生まれる。忌み子は段々と追い詰められ、そして――  忌み子は百を超える完全武装の兵士たちに囲まれた。彼らは数的有利を生かした集団戦法で忌み子を追い詰めた。忌み子はただただ正面から襲い掛かり、居並ぶ大盾に跳ね返され、盾の隙間から突き出された槍を受けた。死角からは絶えず矢が放たれ、忌み子の体に突き立った。  体中に無数の傷を受け、もはや死に体となった忌み子は、最後の力を振り絞って大盾の包囲をこじ開けて突破し、逃走した。  しかし、傷は多く深く、逃げるのもままならない。近くの森に逃げ込むのが精いっぱいだった。  兵士たちは忌み子の血のあとを追い、やがて地にうずくまる忌み子を見つけた。  全身が血まみれで吐く息は弱々しい。もはや虫の息だが、両目だけはぎらぎらと光り、兵士たちを睨んでいる。  手負いの獣ほど恐ろしい。兵士たちは油断なく槍を構えながら近づく。  忌み子は、じっと動かない。  間合いに入った兵士たちが、忌み子を串刺しにすべく槍を繰り込んだそのとき――それは現れた。
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