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 人間のようだった。  あちこちが擦り切れ、ひどく汚れた黒のローブを身に纏っている。袖と裾から覗く腕と足は、くすんだ白布でぐるぐる巻きにされていた。  顔も額から首元まで布が巻かれていた。首より上で露わになっているのはボサボサの黒い髪と憂いを(たた)えた左目、そして――無機質な笑みが張り付いた唇のみ。  それはまるで、木乃伊(みいら)が服を着て歩いているようだった。  突然現れた存在に、兵士たちの動きが止まった。忌み子と木乃伊の両方に槍を向けて警戒する。  それに構わず、木乃伊は兵士たちに歩み寄る。 「おやめなさい。その子が何をしたと言うのです」  静かな、落ち着いた女の声だった。女の言い分に、兵士たちは忌み子がいかに恐ろしいか、何をしてきたか、そしてここで必ず殺さなければならないということを口々にまくし立てた。 「――おやめなさい」  再び告げた女が、手をかざした。  兵士たちは一瞬だけぶるりと震え、次々に構えを解いた。さらに手にした槍や盾をその場に取り落とすと、ふらふらとした足取りで歩き出し、いずれかへと去っていった。  女が再び歩き出す。いまだ動かぬ忌み子の元へ。すぐそばまでたどり着くと、屈み込んで手を差し伸べた。 「もう心配はいりません。大丈夫ですか」  静かに告げる女へ――忌み子は飛び掛かった。
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