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二人の旅
忌み子は女に付き従った。
噛みついても反撃も抵抗もせず、どれだけ喰らってもなくならず、この上なく美味い肉。この女がいれば飢えることはない。生きていくために、女に付き従った。
女は一人で旅をしていた。朝になれば起き、陽が沈むまで歩き、夜になれば眠る、女の生活はただそれだけだった。食事もとらず、水浴びもせず、用を足すことすらしなかったが、この女はきっとそういう生き物なのだと、自分とは異なる何かなのだと忌み子は理解していた。
旅の途中、村や街があれば訪問した。
女が向かう場所は決まってもっとも穢れた場所だった。大抵が貧者が集まるスラム街か、見込みのない病人が集まる人捨て場だった。
忌み子でさえ忌避するような場所を、女は平気な顔で歩き回った。やむなく忌み子もそれに続いた。
貧しさに苦しむ者たちを、女は優しく抱いた。
病に侵された者たちも、女は優しく抱いた。
不埒な考えを持って近づく者さえも、下衆なことを企んで襲う者さえも、女は優しく抱いた。
女に抱かれた者たちは、一様にして救われたような顔をしていた。恍惚とした表情を浮かべていた。
そんな女を、村の人々は罵った。汚濁にまみれた醜女、病を伝播する悪女、誰彼構わず見境なき売女。口汚く罵られても、女は気にもかけなかった。
そんな女を、街の人々は迫害した。投石が頭に当たり、背後から棒で殴られ、路地裏に連れ込まれ暴行される。その身がどれほど傷つこうと、女は気にもかけなかった。
その姿を、忌み子はじっと見ていた。庇うことも、助けることもしなかった。
ただ、女の肉が食えればそれでよかった。女がいなくならなければそれでよかった。
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