二人の旅

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 あるとき、ある街で、女は衛兵に取り囲まれた。  衛兵隊長が声高に告げた。  女は穢れと疫病をふりまく邪悪である、故にはるか遠き孤島へ島流しすることが決まった、と。  有無を言わさず衛兵たちは女の腕を掴むや、引きずるようにして連れていった。  その様子を、忌み子はじっと見ていた。衛兵たちが近づいてくる気配を、忌み子は事前に察知した。無数の足音や擦れる金属音から敵わぬ相手と判断し、女を置いて物陰に隠れた。  忌み子は女のあとをつけた。気配を殺し隠れながら、ひそかに追った。  行先は、街の中央にある城館だった。そびえる塀と堅牢な門に囲われ、あちこちに見張りの衛兵が見える。その中へ、女は連れていかれた。  忌み子は考えた。女がここに連れてこられたのかはわからないが、女がいなくなるのは困る。だが、連れ戻そうにも正面からは到底入れない。たとえどこからか忍び込んだとしても、きっと無事では済むまい。すぐに見つかり、追い詰められ殺されるだろう。  しかしこのままでは、あの極上の肉が食えなくなる。それだけは耐えられなかった。今さら、人間や獣の不味い肉では我慢できない。  結局、女の味の虜となっていた忌み子は、女を連れ戻すことにした。  陽が沈んですぐ、城館へ向けて一台の(ほろ)馬車が走ってくるのを忌み子は見た。きっとこのまま城館へ入るだろう、そう考えた忌み子は、門の前で止まった幌馬車の後ろへ音もなく忍び寄り、荷台の下へ潜り込むや上下さかさまとなって張り付いた。  門が開く重厚な音が響き、幌馬車が進み出す。忌み子に気づく者はいない。  まんまと城館に忍び込んだ忌み子は、光が少ない場所を通った際に荷台から離れ、素早く駆けるや物陰に隠れた。  野生の中で成長した忌み子は、感覚が異常に発達している。嗅覚で女の居場所を嗅ぎつけると、闇に紛れて疾走した。巡回する兵士をやり過ごし、松明の明かりを避け、走り駆け登り飛び降りる。  そうして女の匂いを辿ると、小さな建物に行きついた。扉をくぐる。入ってすぐのところに地下へと続く階段があり、その奥から女の匂いが漂ってくる。他にも別の人間の匂いが混ざっていた。  忌み子が降りたその先は牢獄だった。地下にずらりと並ぶ鉄格子。そのひとつの中に女は囚われていた。  鉄格子の外には、看守と思しき二人の男がいた。剣を()いているが鎧は着ていない。仲良さげに談笑しており、忌み子には気づいていない。  邪魔で、容易い――忌み子がひそかに忍び寄る。 「穢れの魔女ねぇ。体中がぐちゃぐちゃだから包帯で隠してんのかね」 「不細工なだけかもよ。身ぐるみ剥いでみるか?」 「冗談じゃねぇ。何を移されるかわかったもんじゃ――がっ」 「ん? おい、どうし、な、なんだお前――ぐっ」  鋭い爪が、瞬く間に看守たちを貫いた。
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