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牢を出た女は辺りを警戒もせず歩いてゆく。たちまち巡回中の兵士に見つかった。異変を知らせる声が夜の城館に響き、兵士たちがわらわらとあふれ出てくる。
あれよという間に、女と忌み子は兵士たちに囲まれた。ずらりと並ぶ槍の穂先が松明の光を受けて煌めく。
忌み子が身構える一方、女は顔色ひとつ変えず佇んだまま――
「――おやめなさい」
ただ、手をかざした。
――兵士たちの手から槍が、盾が滑り落ち、音を立てて転がる。
――兵士たちがその場にうずくまり、眠ったように動かなくなる。
忌み子にとっては二度目の光景だった。いかなる業かわからないが、わかろうとも思わなかった。何も食わず何も飲まず、傷つこうと喰われようとすぐさま再生する女がこの世の条理を外れた存在であることはすでに理解している。だからこの業も、きっとそういうものなのだろうと考えるだけだった。
折り重なるように倒れ伏す兵士の群れを見下ろし、女が忌み子に声をかける。
「さぁ、行きましょう。付いてきなさい」
歩き出した女のあとを、忌み子が付き従う。
その後も兵士が次々に現れたが、誰ひとりとして女を捕えられなかった。女が手をかざしただけで誰もが倒れ伏し、赤子のごとく無害となった。
そうして女と忌み子は、難なく正面から城館を出た。
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