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「タクオ、サーブ」
春香先輩に声をかけられ、ハッと我に帰る。
えーい、ままよ。ここは勢いづけに投げ上げサーブで勝負だ。
ボールを高く舞い上げると、落ちてきたボールにラケットを合わせ左回転をかけた。
落下速度が加わって、相手コートの左側にギュンと曲がっていく。
「よし!」
しかし相手ペアの女子は、慌てずにテーブル下でゆっくりとそれをカットした。
ちらりと僕を優しく見つめる初春ちゃん。
彼女は小学校時代のクラスメイト。隣の席に座っていて、外人のような栗色の髪が綺麗な女の子だった。
家に遊びに行ったこともあるけど、僕と一緒に撮った写真を大切そうに写真立てに入れてくれていた。
学区が違って中学校は別々になったけど、練習試合で初春ちゃんの学校に行ったらバッタリと出会ってしまった。
しかも卓球部員として。なんで卓球やっているの?
ボブヘアにして少し大人っぽくなった彼女に、僕の心臓はバクバクと高鳴り、以前のように気軽に話すことはできなくなっていた。
すると初春ちゃんのほうから僕に話しかけてくれた。
「タックン、久しぶり。元気だった?」
「う、うん。初春ちゃん、卓球部入ったんだ」
「そう、たぶん卓球やってたら、また会えるかなぁと思って」
僕に? そんなことを聞くこともできず、ただ挨拶だけして別れた。
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