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「よし、それじゃあ、試合で決めよう」
春香先輩が自信ありげに大きな胸を叩いて揺らした。
初春ちゃんは一瞬しかめっ面をしたけど、栗色の前髪をヘアピンで留めると、色っぽい視線を僕に向けてきた。
「いいですよ。タックン、私が勝ったら一緒にデートだからね」
どうして女子達はそんなに大人の会話ができるんだ。
僕はまだ恋愛とかに淡い夢しか持てていない。
卓球男子といえば、非モテ、ダサイの代表格。普段女子から部活のことを聞かれても、「運動部に入っている」と濁すようなことしか答えないようにしているのに、こんな修羅場みたいな場面が訪れるとは夢にも思っていなかった。
大会は五ゲーム制、三ゲーム先取したほうが勝ちだ。しかしゲームは拮抗していた。
初春ちゃんはどんな攻撃もカットでカバーし、春香先輩に疲労が表れ始めていた。
カウントはツーオールになり、ワンゲームを残すだけになった。
でもこんなところで負けたら、顧問の先生にも怒られるし、春香先輩の優勝の夢を踏みにじるわけにはいかない。
「春香先輩、相談があります」
僕はタイムを取った。
「ここまで戦ってきてわかったんですけど、相手チームは初春ちゃんの持久力に支えられていると思うんです。春香先輩がいつもの実力を出せていないのは、攻めのタイミングが初春ちゃんを意識しすぎているからだと思います」
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