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「だってこの勝負……彼女に勝たないと意味がないもん」
「私情を捨ててください、ここは冷静に勝ちにいきましょう。僕のことを信じてくれませんか?」
「言うようになったね。そうだったね、私達が目指していたのは地区大会優勝。よし、勝ったらご褒美にキスしてあげる」
「キ、キス!」
思わず大きな声が出てしまい、初春ちゃんにも聞かれてしまった。
初春ちゃんは僕をじっと見つめた。
「タックン、覚えている?」
「え、何を?」
「昔一緒に写真撮ったでしょう。あの写真渡したとき、一生大事にするって言ってくれたよね。今も持ってる?」
「うん、お守りみたいにいつも鞄に入れて、持ち歩いて……あっ」
春香先輩からゴゴゴという音が聞こえてきそうな厳しい視線が突き刺さる。
「あのさ、タイムもういいかな?」
審判から嫌な顔で注意を受けた。それもそのはずだ、審判は敗者が行う。早く終わらせたいうえに、こんなのろけ話なんて聞きたくもないはず。
浮かれている場合じゃない。今はもっと大きな夢に向かって進んでいかないと。
汗で濡れるラケットを僕はタオルで拭いた。
ラケットの裏面を見て、ふと気づいた。そうだ、僕にはまだ奥の手があった。
「春香先輩、まだ手がありました。僕がサーブを出すので……」
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