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運命を信じない彼
日本地図を書くとき、きっとこの島は書くのを忘れられるのだろう。
俺は鉛筆で丸にも満たない点を書き込む。
それほどに窮屈で小さな場所。
稼業による自給自足のシステム。月1回の内地から来る貨物船。
必ず悪いことは起こさないという住民たちの圧に、絶対的存在である巫女。
これらがバランスをとりあい、この島は成り立っていた。
しかし、その均衡が昨日崩れた。
巫女が死んだのだ。
まずは身内と村の代表者だけのささやかなお葬式が行われた。
その後泣き止まない透を連れて俺の部屋に入る。
ベッドに腰掛ける俺だが、気づけば透は俺の上に乗り背中を預けていた。
彼女はこの体勢が好きなのだろう。
落ち着くといっていたこの体勢に少し恥ずかしさが勝って俺もと言えなかったが、体重を預けてくれる姿に落ち着くのは確かだ。
透は俺の運命の相手なのだという。
これは、巫女が産まれる2年前にそれぞれの産まれる年月日と時間帯まで予言してみせたとのことだった。
正直半信半疑だったし、ネットを通して外の世界を知ってからというものの、さらに信じられなかった。
でも、門外不出、口外厳禁の巫女の力は正直信じなければいけないほど確かなものだった。
未来の天気に、起こる事故、病気に子牛の出産日。全て予言で当ててみせた巫女。
それでも、それでも俺は俺たちを見張るような住民の視線に嫌悪感を抱かずにはいられなかった。
だから、この島の巫女の言葉を認めたくなかった。
…でも、透を好きだと思うのもまた事実だった。
かなり考えたらずで世間知らずだがそれゆえの純粋さも性格も、抱き合ったときの安心感も。俺が透を好きなのは事実だった。
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