5話:名品

1/1
前へ
/34ページ
次へ

5話:名品

 訓練場。  別のチームが使っていた。  一人の少女が魔力を使った羽を作り、それを飛ばす。それを受け取ったもう一人の少女がその羽を扱い目標まで飛翔し、切断する。鮮やかな手並みだった。魔力の羽を纏った少女は幻想的に着地、思わずマネッティアは見惚れてしまった。   「さぁ、マネッティアさん。ご自分の魔導杖をお持ちになって」 「はい」    マネッティアが魔導杖に魔力を込めると待機状態から戦闘状態へ移行する。刃がせり出て銃身が露わになる。剣銃一体型の魔導杖だ。   「ストライクイーグル、第二世代の名品ですわね」    ルドベキアも魔導杖を展開する。   「鳥の羽より軽く、蜂の針よりも硬く、時に鋼より重い。それが魔導杖ですわ」    フミがマネッティアの魔導杖を見て唸る。   「クレストらしい性能ですね。魔力が充電されています。素直な戦術機です」 「分かるんですか?」 「魔導杖とは衛士と一心同体。触れれば触れるほど融合していき、魔導士の手足となる」 「私もそんな風になれるんでしょうか」    フミは不安そうにつぶやいた。   「ユグドラシル魔導学園に入れたと言うことはそうなれる見込みがあるでしょう」  ルドベキアのぶっきらぼうな、しかし優しさのある言葉にフミは笑う。 「ありがとうございます。頑張ります」   ◆    クローバーは自身の魔導杖を見ていた。刀身は綺麗に整備され、可変機構も問題ない。  背後で作業しているマジマから声がかかる。   「どぉー?」 「問題ないです、バッチリです」 「少しガタついてたから少し部品を交換したわ。銃身はあと二回出動したら交換ね。覚えててよね。私忘れっぽいから。どういたしまして」 「うん、ありがとう」    そう言ってクローバーは外へ出て行った。  マジマはため息をついて眼鏡を定位置に戻した。   「クローバーの腕前であそこまで疲弊するなんてどれだけ戦ってるのよ。もう少し自分の体を労わりなさいよね」    クローバーは工廠科に繋がるエレベーターに乗り込もうとすると、マネッティア達と鉢合わせした。 「あ、マネッティアちゃん。ごきげんよう」 「ごきげんよう、クローバー様」 「工房に何か用なの?」 「はい、私の魔導杖をもっと知ろうと思いまして」 「それは良い考えだね。知識面から覚えておけばいざという時に役に立つよ。あ、そうだ。魔導杖はできるだけ盾に使わないようにね」 「何故ですか?」 「側面からの強度はやっぱり低めだから。一度や二度なら良いけど立て続けに受けると折れて戦えなくなっちゃうから、変な癖が付く前にステップ回避を取得して回避型の戦闘スタイルを目指した方が良いよ」 「わかりました」  そこで口を挟んできたのはルドベキアだ。 「ステップ回避ですの? あれは廃れた技術ではありませんこと? 今はジャンプ回避が主流だと記憶していますが」 「うん、主流なのはジャンプ回避だけど私はステップ回避を絶対覚えるべきだと思うんだ」 「何故ですの?」 「そもそもこの二つの違いを説明できる?」  ニョキっと生えてきたフミが説明する。 「ステップ回避は二次元的な動きで回避する技術で消耗が少なく、回避距離が短い。ジャンプ回避は三次元的な回避で消耗が多く回避距離が長いことが知られています」 「うん、その通り。基本的にジャンプ回避の方がメリットが多いのは確かなんだけど、ステップ回避は瞬発力が高いから咄嗟の回避に役立つの。だから私はジャンプ回避よりステップ回避を重点的に教えているんだ」 「そうなんですね〜!」 「勿論、ジャンプ回避もできて損は無いんだけどね。モンスターとの超高速戦闘では素早い判断と回避が重要だから」 「私も練習してみますわ。ここでお止めするのも申し訳ないですし、どうぞ」 「あ、ありがとう」  階段を先に譲られて、クローバーはそのまま上がっていく。  反対に、階段を降りて、フミに案内されて、マネッティア達は工房に着いた。 「ここが工廠科です」 「地下にこんな施設があったんですわね」 「地上はモンスターが跋扈して土地が少ないから地下都市を作ったのね」 「人だけはいますからね。生命を生贄に使用する代わりに莫大なパワーを持つ魔法を使って強引に地下開発を進めた経緯があります」  ドアを開けるのと同時に悲鳴が飛び込んできた。   「あああ! 失敗した! この一月の努力が!」    失敗したと言う魔導杖の刃を見ると、刃には規則正しく魔力を制御する為の刻印がなされていた。そこに大きなヒビが入ってしまっていたのだ。これでは十分に魔力を行き渡ることが出来ない。   「こんなものもあるぞ」    そこには魔力を制御する為の刻印がびっしりとなされていた。  ひと段落ついて、ティータイムの時間になった。  三人は軽いものを食べたが、マジマはパフェにステーキにジュースとラテと沢山ものを頼んでいた。それを全て平らげていた。   「それにしてもクローバーと姉妹誓約を結びたいなんてねー」  難しい顔で船を漕いでいた。 「何故、クローバー様はあんなお辛そうなんですか?」 「馬島様は何かご存知なのですか?」 「知ってるわ、だけど教えない」 「何故ですか?」 「本人が望まない事を私がベラベラ喋るわけにはいかないでしょ。魔導士は税金も投入される公の存在であるけど個人情報は本人がそれを望まなければ非公開にされるの。本人の心理状態が戦略に直結する上に感じやすい10代の女子ともなれば、相応の対応ね」    ルドベキアが不満そうに言う。   「あのお方、あまり感度高そうには見えませんけど」 「感じ過ぎるのよ、感じすぎて振り切れてしまった。あとは本人に聞いてね。答えてくれるのなら」 「はい」 「どうしてそこまでクローバー様に拘りますの?」 「初めて出会ったクローバー様と今のクローバー様はまるで別人で、それが不思議で。知りたいんです」    あの笑顔で助けてくれたクローバーと、今の作り笑顔でボロボロのクローバー。  一体何があったのかクローバーにはどうしても知りたいことだった。   「クローバー様がそれを望んでなくてもですか? ご自分ならクローバー様を変えられる? そんなのはマネッティアさんのエゴではなくて?」 「それは、そうかもしれないけど。何がクローバー様を変えてしまったのか。何を胸にしまっているのか。それを知りたいんです」 「はぁ、これは当たって砕けるしかありませんわね。クローバー様に冷たくされてボロ雑巾のようにあしらわれたマネッティアさんを慰めれば私の株は爆上がり! という寸法ですわ!」 「ルドベキアさん、妄想がダダ漏れです。株が急降下してますよ。というかクローバーさんは優しく断るんじゃないですか?」 「断るのは前提なのね」 ◆  射撃訓練場。  発射音が何発が響く。  ドン! ドン! ドン! ドン!  窓には全弾命中。しかし位置はバラバラで一貫性がない。  クローバーはため息をついて魔導杖を置いた。  その様子を、同学年の梅は心配そうに見ていた。 「なんか心配ごとか?」 「新入生のことが心配で」 「死亡率は二番目に高いからな。クローバーの心配もわかるぞ。だけど今回は粒揃いだ、心配することないんじゃないか?」 「心配なのは今年から魔導士になった子だよ。実力も人脈もないから傷つきやすい」 「そうだな。そこは臨時遠征魔導士してサポートすれば良いんじゃないか?」 「うん、そうするつもり。心配してくれてありがとう。梅ちゃん」 「気にするナ! 戦友だろ!」  梅はクローバーの肩を叩きながら、去っていった。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加