六話:模擬モンスター戦①

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六話:模擬モンスター戦①

 夕方。  赤い光が校舎を照らす。  二年の校舎にやってきたマネッティアとルドベキアは、クローバーと出会った。 「さっきぶりだね、二人とも。どうしたの、何か用事?」 「クローバー様、姉妹誓約の契りを結んでください」 「そう、だね」  クローバーは二人から視線を逸らし、腕を握る。  姉妹誓約は特別な契りだ。上級生が下級生を守る契り。衛士の生存を望む真昼としては感情の問題を抜きにすれば結んでも問題ない筈の制度だ。  クローバーの先には、幽霊のクフィアが黙ってクローバーを見つめている。 「ごめんね、それはちょっと無理かな」 「何故ですか?」 「私の問題というか、姉妹誓約を結べるような人間じゃないっていうか」  クローバーは死者に苛まれて続けている。  『お前だけ幸せになるのか?』『特別な関係を得るのか?』『おかしいだろ』『俺たちは』『私たちは』『お前達の扇動で死んだんだ』『生者に尽くせ』『個人の幸せなんて認めない』『モンスターを殺せ』『魔導士と防衛軍を使い潰せ』『殺せ』『殺せ』『殺せ』  そんな声が常にクローバーの頭には響いている。クローバーはこれを正常だとは思えない。自分は狂っているのだ。そんな人物が姉妹誓約なんて結んで良いはずがない。そんな関係性を築くべきじゃない。 「だから、無理なんだ。マネッティアちゃんが駄目って事じゃないよ。ただ私が駄目なんだ。私は駄目な魔導士だから」 「それはおかしいですわ。クローバー様が駄目な魔導士なら、殆ど魔導士が駄目な魔導士になってしまいます。噂は聞いていますわ。どんな絶望的な戦場でも諦めず味方を鼓舞して未来を切り開く希望のラプラス、と」 「はい! 私もクローバー様に命を救われました。子供頃にニブルヘイム撤退戦で逃げ遅れていたところを救われたんです。そこで憧れて、追いかけてユグドラシル魔導学園にきたんです。だから!」 「勘違い、してるよ。二人とも。私はそんな存在じゃない。もっと、汚れている」  クローバーは二人の純粋な瞳に耐えきれなかった。すぐにでも会話を終わらせたくて、ある提案をした。 「じゃあ、こうしよう。私についての悪い噂があると思うんだ。それを調べて、事実関係を調べた上で、まだ姉妹誓約なりたいならまた来て欲しい。それで頷くともいえないけど、良い情報だけでなく、悪い情報も知らないとね」 「悪い噂、ですの?」 「自分でいうのは簡単だけど、こういうのは人が言うから広がるからね。私が人からどんな人間だと思われているのかちゃんと知った方が良い。姉妹誓約になればそれは自分の噂にもなるんだから」 「わかりました」 「期限はありますの?」 「ううん、そうだな。十日くらいがいいかな。じゃあ、私は行くよ」  クローバーが去った後で三人は話し合う。 「随分と自己評価が低いお方ですのね」 「はい、クローバー様といえばレギオンの力が倍増すると言われるほどの能力をお持ちです。ラプラスだけでなく、知らないレギオンとの即席連携能力が高いんです! そのことからいれば勝てる幸運のクローバーと称されています!」 「やはり凄い方なのね。自分の悪い噂を集めろ、というのも、私たちのことを慮ってのことでしょう。まずはどうするべきかしら?」 「一年生はクローバー様の事はあまり知らないかもしれません。聞くとしたら二年生でしょうか」 「二年生……でしたら2代目アールヴヘイムの方々はいかが? 確かクローバー様も初代アールヴヘイムの一員でしたよね」 「アールヴヘイムなんて私たちじゃあそれ多くて声をかけれませんよ!」  話し合っているうちに夜になっていた。今日は解散して、それぞれの部屋に戻る事になった。  翌日、メインホールへ行くとざわざわと人だかりができていた。掲示板には新聞が貼られていた。 『週刊ユグドラシル新聞! マネッティアさん、クローバーさんに姉妹誓約を申し込む!!』 「これは、何!?」 「あ、マネッティアさーん」 「フミさん、これは一体何事かしら?」 「週刊ユグドラシル新聞です! ユグドラシル魔導学園訓練校の出来事を新聞として発表するんです、全部私の手作りです」 「なるほど、わかったわ」  これから何かあればネタにされるのを予期しながら、マネッティアは朝食を食べた。ルドベキアも合流して、いつもの三人となった。クラスも一緒で、そのまま午前は座学を受けた後、午後は実戦訓練となっていた。  訓練場では戦術機がずらり、と並んでいる。  訓練室の大きさの都合上、クラスを五つのグループに分けて訓練する事になっていた。また教導官だけではなく、実戦を今経験している上級生もその訓練に教える側として参加していた。  教えを受ける側はルドベキア、愛花、葉風、そしてマネッティアの四人だ。 「よーし、揃ってるな? 遅刻欠員なく結構結構。訓練を担当する梅だぞ! よろしくな!」 「同じく訓練を担当するクローバーです。よろしくね」  緑髪の先輩とクローバーが立っていた。 「よし、まずは魔導杖操作の習熟度を見るぞ! 実戦経験のあるものは前に出てきてくれ!」  ルドベキアと赤と金のオッドアイを持つ愛花、そして大人しめな葉風が前へ出る。 「まずは五発! 標的に向かって、構え! 撃て!」  全員が模擬標的に向かって弾丸を発射した。煙が晴れると、全ての標的が五個の穴が空いていた。全員が模擬標的に弾丸を全て命中させたことを示している。 「流石、実戦経験組、上手いもんだ」 「凄いわね」  マネッティアはまだ魔導杖に触れて短い。あんな風に当てる事はできないだろう。 「動かない的に当たるなんて訓練になりませんわ」 「感心してる場合じゃないぞ、次なら行くぞ」 「はい」  魔導杖を手に取るとずっしりとした重さが伝わってくる。銃形態へ変形させながら構える。 「構え! 撃て!」  マネッティアはトリガーを引いた。しかし弾は出なかった。他の二人は弾丸が発射され、的に掠ったり、地面に着弾したりしている。弾が出ていないのはマネッティアだけだ。 「あら? どういうことかしら?」 「弾が出ないの?」 「は、はい」  クローバーが隣で問いかける。 「魔導杖を固定したらコアに手をかざす。適正試験の時のように魔力を高めるのではなく、自分の魔力と魔導杖を繋げるように意識して」 「自分の中にある魔力と魔導杖を繋げる」  言われた通りやると魔力クリスタルが輝いた。 「そして構えて」 「はい」 「トリガーを引く」 「はい」  魔導杖から弾丸が発射された。しかし的には当たらず周囲に弾痕を残した。 「初めてならこんなものだな!」 「まずは銃撃の反動に慣れる事から始めてみようね」 「わかりました。ありがとうございます」  クローバーは魔導杖から離れる。その時だった。  ルドベキアが言う。 「ちょっとよろしくて? ここにいるのは実践経験者が半分以上です。動かない的を撃っても訓練にならないのではないでしょうか」  ルドベキアは勿論のこと、愛花、葉風はベテランと言っても過言ではない。 「そこで一つ提案があります。模擬デストロイヤー戦で実力を磨くのはどうでしょうか?」  模擬モンスター戦。  シュミレーターを使ったかなり実戦に近い訓練のことだ。当然痛みも衝撃も発生もするので手抜きはできない。  マジマが改良した精巧なシュミレーターがこのユグドラシル魔導学園には実装されている。 「どうする? クローバー」 「そうだね、初心者は模擬モンスター戦は厳しい気がするけど、いつ実践に投入されるかわからない以上経験は積ませておいた方が良い、かな。うん、やろうか」  第三演習シュミレーター室。 「天気は晴れ、気流は強い、視界の晴れた平原」 「風が強いなー」 「攻撃の軌道が読みづらいから、そこが勝負所だね」 「今回は実力差のあるメンバーが入り混じっての対決だ。お互いフォローを忘れずにナ!」 「それでは、模擬モンスター戦、始め!」  クローバー、葉風チーム。  ルドベキア、愛花、チーム。  仮想モンスターが出現して、2チームに襲いかかった。
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