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「ねえねえ、これ見て?」
マネージャーの紗季が、リハーサル後の楽屋で寛いでいたアイに、自分のスマホを差し出してみせた。
「なに?またマッチングサイト?いいオトコでもいたの?」
アイは関心なさそうに、視線だけ紗季に向け、揶揄うように鼻で笑う。
「違うわよ。この投稿動画の“歌ってみた”ってやつ。最近あなたの新曲を歌った子がバズってるけど、見たことある?
この子、すっごくアイに似てるんだけど」
それを聞いたアイは関心が湧いたのか、ようやく差し出されたスマホを手に取った。
「えーっ、そんなに似てるかな?
声は確かに似てるけど、顔は違うくね?
てか、この子、顔出して歌うなんて勇気あるよねー」
そうは言ってあまり関心がない風を装ってみたものの、アイも予想以上にその歌い手が自分に似ていたことに少し驚き、思わず見入ってしまっていた。
そして、紗季のスマホを借りたまま勝手に検索して、その歌い手が投稿した過去動画も次々に開いてしまっていた。
投稿日時が古いものを除けば、最近の投稿はほぼ全てアイの曲を歌っているらしい。
アイはその初々しくもアイのようにパワフルに歌う投稿主、Myの動画を見ながら、ふと自分のデビュー前のことを思い出していた。
アイは、最近メディアでその曲を聞かない日はないほどの、若手実力派のシンガーだ。
ショート動画で女子高生が踊る際のダンスミュージックとしてデビュー曲が使われてバズったのをキッカケに、ジワジワとファン層を広げ、今ではテレビドラマやCMにもタイアップとして彼女の曲が何曲も使われているほどの人気ぶり。
ただ、ここまで来るのは決して簡単なことではなかった。
アイ自身も高校生時代は、顔を出さずににボカロ曲の「歌ってみた」動画を投稿する“アマチュア”バーチャルシンガーだった。
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