シン・ロミオとジュリエット

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きっかけは中三の文化祭で「ロミオとジュリエット」を演じたことだった。 定番のそれをそのままやるのじゃ面白くないからと、これもまたお決まりではあるけど、男女逆転でやろう、となった。 つまり、男女逆の役を男子は女装、女子は男装でという、あれだ。 僕らはなぜかクラス投票で主役の二人に選ばれてしまったのだ。 脚本も自分たちで作り、「シン・ロミオとジュリエット」とした。 そこで、僕は運命を感じることになる。 あの頃、心の中での一人称こそ「僕」だったけれど、対外的には自分を「私」と呼んでいた。 分類されるときはいつも「女子」だった。 そしてそのことに、ずっと居心地の悪さを感じて生きていた。 そんな僕が台本を初めて読んだ時の高揚と、「ロミオ」を演じた時の開放感は、筆舌に尽くしがたかった。 今がこれから生きていく上での大きなターニングポイントだ、そんな実感があった。 僕は生まれてはじめて、自由だった。 忘れていた本来の自分を思い出した、やっと楽に呼吸ができるようになった、そんな感覚。 そう、十五年間「私」として生きてきたところの「僕」は、「ロミオ」だったんだ! ーーそしてなんとも驚くことに、15年間男子として生きてきたのぞみも、同じことを感じていたというのだ。 初めて台本を読んだ翌朝、興奮したように報告してくれた。 「私、ジュリエットだったの!!」       ☆ 『生まれた家とか肌の色とか性別とか、どうでもよくね?』 『それ!私はジュリエット、あなたはロミオ、ただそれだけだよね!』 二人で取り合って立ち上がる。 『二人で楽しく生きて行こう!』 それが、僕たちの劇のラストシーンだった。       ☆ こうして僕たちは自分たちの共通点を発見した。 お互いが唯一無二の存在であると感じるようになるまで、そう時間はかからなかった。 中学を卒業したら本来の自分たちで行こう、そう約束し合った。 ただの幼馴染だった僕たちが、「運命のふたり」になるまでの話。        ☆ 細くて白くて僕より少し背が高いのぞみと手を繋いで、いつもの帰り道を歩く。 のぞみと僕は、同じ制服を身に纏っている。 二人ともブレザーにネクタイ、スラックス。 春からめでたく入学した高校で、今年から採用された男女共通デザインの制服だ。 昨今のジェンダー事情に配慮されていて、スラックスとスカート、ネクタイとリボンは男女どちらでも自由に選ぶことができる。 僕たちは、新しい時代を生きていくんだ。 自分が選んだ姿で、自分で選んだ人と一緒に。       ☆ --まさか、あおいちゃんとのぞみくんが、だったなんてね。 ーーでも、本人達が幸せそうだから、それでいいんじゃない? ーーなんだかんだ、お似合いカップルなんだよね。 ーーうん、それは間違いない!
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