0人が本棚に入れています
本棚に追加
きっかけは中三の文化祭で「ロミオとジュリエット」を演じたことだった。
定番のそれをそのままやるのじゃ面白くないからと、これもまたお決まりではあるけど、男女逆転でやろう、となった。
つまり、男女逆の役を男子は女装、女子は男装でという、あれだ。
僕らはなぜかクラス投票で主役の二人に選ばれてしまったのだ。
脚本も自分たちで作り、「シン・ロミオとジュリエット」とした。
そこで、僕は運命を感じることになる。
あの頃、心の中での一人称こそ「僕」だったけれど、対外的には自分を「私」と呼んでいた。
分類されるときはいつも「女子」だった。
そしてそのことに、ずっと居心地の悪さを感じて生きていた。
そんな僕が台本を初めて読んだ時の高揚と、「ロミオ」を演じた時の開放感は、筆舌に尽くしがたかった。
今がこれから生きていく上での大きなターニングポイントだ、そんな実感があった。
僕は生まれてはじめて、自由だった。
忘れていた本来の自分を思い出した、やっと楽に呼吸ができるようになった、そんな感覚。
そう、十五年間「私」として生きてきたところの「僕」は、「ロミオ」だったんだ!
ーーそしてなんとも驚くことに、15年間男子として生きてきたのぞみも、同じことを感じていたというのだ。
初めて台本を読んだ翌朝、興奮したように報告してくれた。
「私、ジュリエットだったの!!」
☆
『生まれた家とか肌の色とか性別とか、どうでもよくね?』
『それ!私はジュリエット、あなたはロミオ、ただそれだけだよね!』
二人で取り合って立ち上がる。
『二人で楽しく生きて行こう!』
それが、僕たちの劇のラストシーンだった。
☆
こうして僕たちは自分たちの共通点を発見した。
お互いが唯一無二の存在であると感じるようになるまで、そう時間はかからなかった。
中学を卒業したら本来の自分たちで行こう、そう約束し合った。
ただの幼馴染だった僕たちが、「運命のふたり」になるまでの話。
☆
細くて白くて僕より少し背が高いのぞみと手を繋いで、いつもの帰り道を歩く。
のぞみと僕は、同じ制服を身に纏っている。
二人ともブレザーにネクタイ、スラックス。
春からめでたく入学した高校で、今年から採用された男女共通デザインの制服だ。
昨今のジェンダー事情に配慮されていて、スラックスとスカート、ネクタイとリボンは男女どちらでも自由に選ぶことができる。
僕たちは、新しい時代を生きていくんだ。
自分が選んだ姿で、自分で選んだ人と一緒に。
☆
--まさか、あおいちゃんとのぞみくんが、あおいくんとのぞみちゃんだったなんてね。
ーーでも、本人達が幸せそうだから、それでいいんじゃない?
ーーなんだかんだ、お似合いカップルなんだよね。
ーーうん、それは間違いない!
最初のコメントを投稿しよう!