プラシーボ

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 剛は真剣なまなざしでゴキブリを掲げ、わたしの口へ持っていこうとする。  この時、わたしの脳裡にこれまでの思い出が走馬灯のようによぎり、手の届かない過去の向こう側で、多くの人間がわたしを責め立てて嘲笑っているのが聞こえた。 「ごめんね。お母さん、学生時代にいじめられて、たくさんゴキブリ食べさせられたのよ。だから、このお薬は効かないと思うわ」 「…………っ」    剛の息を呑む気配に、わたしは悲しくなった。  こんなお母さんでごめんね。  すべてを受け入れて口を開くと、舌にぽてりと乗っかる黒い虫。   【了】 48a3e7f8-61f3-4bb7-9171-aea5f2faa860今回の挿絵は、こちらの素材を使わせていただきました。 https://assets.clip-studio.com/ja-jp/detail?id=1659792
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