10人が本棚に入れています
本棚に追加
綾が風邪をひいた。
昨晩、ゾンビのように気怠そうに帰宅し「暑いから」と、冷房をつけたままでソファーで寝たせいだ。
綾の今朝の第一声は「頭が痛い。われそう…」だった。それも、醜くしゃがれた声で。ゴホゴホと咳も苦しそうだ。
「声やばいね…大丈夫なの?もう昼だけど…」
俺はそう言って、リビングのカーテンをサッと開けた。
「うっ眩しい!ヤダ、閉めて…」
南向きの日当たりのよい部屋のため、夏の強い日差しが容赦なく差し込んでくる。
俺は「あぁ…」と、カーテンを閉めた。
「ねぇ…風邪薬ない?」
綾は朝方に俺が掛けてやったタオルケットを頭までかぶって、気怠そうに尋ねてきた。
「探すわ…」
俺は、常備薬を入れてあるテレビボードの引き出しを開けた。
口内炎のパッチ、絆創膏、下痢止め、胃薬、救心・・・
それらしいものは見当たらない。
「無い。買ってくるよ…」
俺は綾の返事も待たずに財布とスマホを握って、外へ出た。
いつものようにマンションのエレベーターに乗り込んで、1階ボタンを押す。
グゥーンと、俺を乗せた鉄の箱が6階から降りていくのを体で感じた途端、チカチカっと電気が点滅した。そして、直ぐにガクンと何かに引っ掛かったように鉄の箱は動きを止めた。
「あれ、故障か?」
俺はエレベーターの非常用のボタンを押した。
『あ?これでいいのか?…ゴホン…ハイ、こちら管理室です。』
なんとも間の抜けた男の声での応答があった。
「エレベーター止まっちゃったんですけど」
『え?あ、マジ?…えっとえーっと、あ!ひとまず落ち着いてください』
「はぁ…」
お前がな?
最初のコメントを投稿しよう!