パンデミックの世界で

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 重たい足を必死で動かし、やっとの思いで自宅マンションに帰ってきた。  マンション前には、管理室にいた男女の衣服だけが落ちていた。肉体らしきものは跡形もなく、黒い影だけが地面に残っていて、俺は息をのんだ。  急がないと!  俺は非常階段を駆け上がった。  6階まで、なんて長い階段だ…  部屋のドアの前に来て、俺は大きく深呼吸を一つついた。    もし…すでに綾がゾンパイアになっていしまっていたら?  薬を飲ませても間に合わなかったら?    ドアノブに手をかけた瞬間、俺の脳裏に弱気な思考がよぎった。  俺はそんな雑念を払うように、ゴツンとドアに頭を打ち付けた。  俺は、どんな綾でも愛している。  綾がゾンパイアなら、俺はそれを受け入れる!  俺は勢いよくドアを開けて「遅くなってごめん!」と、リビングへと急いだ。  リビングのソファーには、タオルケットを頭までかぶって綾はうずくまっていた。  俺はコップに水を汲んでソファーの傍らに腰を下ろした。  「ツラかったね、薬…ほら、飲も?」  綾からの返事はない。  俺は意を決して、そっとタオルケットをめくった。  その瞬間、目に飛び込んできたのは真っ赤に染まった綾のパジャマと、胸に刺さったナイフだった。    ――え?まって、何で?  胸に刺さったナイフには、綾自身の手が添えられている。    「綾っ!?あやっ…嫌だ、何で?薬、もらって…」  俺の手にベッタリと綾の血が付いた。  「うわぁーーーーあやぁーーー!!」      
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