パンデミックの世界で

14/14

10人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
 ――隆、隆ってば…ねぇ、隆?  自分の叫び声の残響を耳に、名前を呼ばれて俺は目を覚ました。    「隆、大丈夫?」  いつもの可愛い綾の声だ。  俺の視界はぼやけていて、綾の瞳がどんな色をしているのかわからない。  俺は涙でびしょ濡れの顔をパジャマの袖で拭った。     「綾?綾だ!生きてる!綾が生きてる!!」  俺は、心配そうに俺の顔を見つめる綾を抱きしめた。    「隆、熱出して丸一日寝てたよ…ひどくうなされてた…」  「そっか…そっかぁ…良かったぁ…」  「怖い夢でも見た?」  「うん、すっごいリアルだった…怖かったー!」  「どんな夢だったの?」    思い出すだけでおぞましい…  綾の感染経路も、ゾンパイアに襲われる恐怖も、綾の自死も…  あぁ、夢で良かった。  本当に、本当に、良かった…  「ね、まだちょっと熱っぽいし、おくすり飲んだ方がいいんじゃない?」  綾がそう言って、俺に風邪薬の小瓶と、水の入ったグラスをくれた。  そして「もうすっかりお昼だよ」と、綾はカーテンを開けた。  「うわっ!眩しい!!」  そう言って、窓から顔をそむけた綾を見て、俺は全身が粟立った。  「綾!綾もおくすり飲んどきな!」   「え~?だって、何の症状もないよ?」    綾は怪訝な顔をする。  「ほら、早めのなんちゃらって言うでしょ?」  「…そう?」    俺たちは黄色い錠剤を飲んで「健康が一番だね」と笑った。    ひとまずこれで安心だ…  薬を飲む綾を見て、成し遂げられなかったミッションを達成できた気がして、俺は満足感に浸った。    
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加