パンデミックの世界で

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 綾が風邪をひいた。  昨晩、ゾンビのように気怠そうに帰宅し「暑いから」と、冷房をつけたままでソファーで寝たせいだ。  綾の今朝の第一声は「頭が痛い。われそう…」だった。それも、醜くしゃがれた声で。ゴホゴホと咳も苦しそうだ。  「声やばいね…大丈夫なの?もう昼だけど…」  俺はそう言って、リビングのカーテンをサッと開けた。  「うっ眩しい!ヤダ、閉めて…」  南向きの日当たりのよい部屋のため、夏の強い日差しが容赦なく差し込んでくる。  俺は「あぁ…」と、カーテンを閉めた。  「ねぇ…風邪薬ない?」  綾は朝方に俺が掛けてやったタオルケットを頭までかぶって、気怠そうに尋ねてきた。  「探すわ…」  俺は、常備薬を入れてあるテレビボードの引き出しを開けた。  口内炎のパッチ、絆創膏、下痢止め、胃薬、救心・・・  それらしいものは見当たらない。    「無い。買ってくるよ…」  俺は綾の返事も待たずに財布とスマホを握って、外へ出た。  いつものようにマンションのエレベーターに乗り込んで、1階ボタンを押す。  グゥーンと、俺を乗せた鉄の箱が6階から降りていくのを体で感じた途端、チカチカっと電気が点滅した。そして、直ぐにガクンと何かに引っ掛かったように鉄の箱は動きを止めた。    「あれ、故障か?」  俺はエレベーターの非常用のボタンを押した。  『あ?これでいいのか?…ゴホン…ハイ、こちら管理室です。』  なんとも間の抜けた男の声での応答があった。  「エレベーター止まっちゃったんですけど」  『え?あ、マジ?…えっとえーっと、あ!ひとまず落ち着いてください』  「はぁ…」  お前がな?    
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