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百合はハンカチで目元を押さえながら言った。本当に彼女に罪悪感があるのかはさておき、ようやく本題に入ってくれそうなので私は黙っていることにした。
「私、宏斗のことを愛してしまったの……」
「そうなんだ」
素っ気ない言葉が出てしまった。こういう時どんな反応をするのが正解なのだろうか。
「一緒に仕事をして、お酒も入ってそういう関係になってしまって、それで……」
「いつも写真くれてたものね」
「えっ?」
驚いたのは宏斗だった。まさか自称接待中の写真を送ってくるだけのお粗末なアリバイ工作で、不倫はバレないと思っていたのだろうか。
でもきっと百合は私が気づくことをわかっていただろう。
百合はそんなにバカではない。私を安心させるためと言いながら、あれは私へのアピールだ。百合の前で楽しそうにしている宏斗、素敵な店に連れてきてもらった優越感、二人きりの出張。
妻に堂々と浮気現場を実況して自慢できる、それはどれほど気持ちがよかったことだろう。
百合は最初からバレるつもりでやっている、今日のこの日を期待して。
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