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黙ったままでいた宏斗が緊張した面持ちでそう言うと、百合はさすがに感情が隠しきれなかったらしく顔が緩んだ。
百合は最初からこの展開を望んでいたのだろう。私はノンアルコールビールを口に含んだ。
そして、百合はすぐにその感情を隠し直してから涙を浮かべて言った。
「私、妊娠したの。……宏斗の子を」
「まあ」
芝居がかった声が出てしまったが、百合が妊娠していることは本当に想像していなかったのだ。
「それで……」
百合はそこで言葉に詰まりボタボタと涙を流し始めた。だんだんそれは嗚咽に変わっていく。
「もういいよ百合、ありがとう。俺から言うよ」
「宏斗、ありがとう……」
宏斗が男気を見せるようだ。その姿に百合は隣の宏斗の膝にそっと手を置き、そこに宏斗も手を重ねた。感動のシーンである。
「冬子、別れてほしい。もちろんその……冬子のことも好きだけど、ほら……俺、子供が欲しかったの知ってるだろ?冬子といても無理だったし……それで……」
本当に百合のことを愛しているのかイマイチわからない宏斗の言葉に、百合が微妙な顔をしているのに宏斗は気付いていない。女心がわからない男だ。
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