05 全ての妻よ、さようなら

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05 全ての妻よ、さようなら

「えっ?」  ここで話を変えられるとは思っていなかったようで、二人は不思議そうに私を見た。 「実は……さっき産婦人科に行ってきたの。ほら先日人工授精したでしょ?」  私の言葉に宏斗は大きく目を見開き、百合は途端に顔色が変わった、涙も止まったようだ。二人は私の手元にあるノンアルコールビールに視線をうつす。私が一杯目はいつもビールだということは二人はよく知っているはずだ。 「二人の間に子供ができたって聞いて、言わないでおこうかともすごく悩んだんだけど……」  私がうつむくと「ま、まさか!」と宏斗のうわずった声が聞こえた。 「ちょっと宏斗」焦ったような百合の声が聞こえる。少しだけ視線を上げると、百合は宏斗の服の裾をぎゅっと掴んでいる。 「ごめん、冬子。それなら一度三人でしっかり話し合おう。冬子だけが諦める必要はないんだ」 「宏斗……!」  百合の悲鳴のような声が聞こえるけれど、きちんと言わなくてはならない。  私は封筒から書類を出して、二人の目の前に提出した。 「こ、これは……?」
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