05 全ての妻よ、さようなら

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 宏斗は何も言えなくなっていたので、その言葉を発したのは百合だった。 「そう、その時も精子はいなかったの。私もまさかと思ったし、宏斗は私に原因があると決めつけて協力もしてくれなかったから結局のところはわからなかったの。でもどうしても知りたくて……今回精液検査をさせてもらった。やっぱり精子は全く見られなかった」  二人をちらりと見ると、顔面蒼白のまま固まっていた。やはり私が悪者みたいだ。 「宏斗は子供を欲しがっていたから伝えなきゃと思ったの。でも、二人の間に子供ができたって聞いて……ごめんなさい、言うかどうかは迷ったんだけど」 「つまり……」  震える声で宏斗が呟いた。今度は百合が喋ることができなくなったらしい。 「百合のおなかにいるのは、誰の子だろうね」  宏斗がすごい勢いで百合の方を向くけれど、百合は震えたまま宏斗を見ようとせずうつむいたままだ。 「でも私は答えを知ってしまったの」  私は鞄の中から写真を数枚取り出した。二人の男女がうつっている。
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