05 全ての妻よ、さようなら

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「だって、宏斗が好きなんだもん。本当に好きなの、入社した時からずっと好きだったの」 「部長と付き合ってたんだろ?」 「宏斗が冬子と婚約して……ヤケになっててその流れで……でも、本当に宏斗だけなの……」  百合は宏斗の肩に縋りながら崩れ落ちて懇願している。それを横目に私は店員さんから料理を受け取った。さすが高級割烹、個室ではこういうシーンもよくあるのだろうか。修羅場のど真ん中で平然と配膳をしている。 「子供ができてないなら、百合とは別れる」 「どうして!?冬子と別れるって言ってくれたじゃない!」 「それは子供ができたからだろ?」 「愛してるって言ってくれたじゃない」 「はあ……わかるだろ。会社の飲みの後に気軽に会える、それだけだよ」 「酷い!」 「酷いのはどっちだよ!子供が出来たなんて騙して、部長とも二股もかけて!」 「でもどうせ宏斗は子供できないじゃない!」  しばらく二人で言い合いを続けていたのだが、その言葉には宏斗も黙って、その場はシンとなった。  次々に色々判明して、自分の無精子症のことを忘れていたらしい。 「なあ冬子、俺には冬子だけなんだ」
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