雨が上がれば

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雨が上がれば

「どこにだって、お陽さまは照るのよ」  前の会社で、人間関係に悩んでいた時、母はそう言った。 「それにね、雨が上がれば、虹が出るんじゃない?」 「それ、『AfterRain』のデビュー曲の歌詞じゃない」  植松亜由美に言われ、梨央は頷いた。AfterRainは、5人組のボーイズグループだ。 「そのおかげで、転職できたの。転職して良かった」 「前いたところは、大手だったんでしょ。給料も下がっちゃったんじゃない?」 「いいの。亜由美さんに出会えたし。こうやって、一緒にランチして、AfterRainの話ができるし」  亜由美とは、部署も年代も違うが、グッズを使っていた事で、AfterRainのファンだと気づいて、仲良くなれた。 「そう言えば、副社長にも、ランチ誘われたでしょ? 断って良かったの?」 「うーん。どうも、苦手なんだよね。いつも、取り巻き引き連れてるし」  5年前、会社を立ち上げた時には、副社長の村田瑞穂は、一社員だったらしい。いわゆる、社長に見初められたというやつらしい。 「瑞穂さんの方が、梨央ちゃんとは年代近いんじゃないの?」  亜由美も、会社の立ち上げから在籍している古株だ。現在の肩書は、販売促進室長。 「えーと、梨央ちゃんが26? 瑞穂さんは、確か33だし。私は40…」 「いや、亜由美さんは、40には見えませんよ」 「そう? お世辞言っても何も出ないわよ」  お世辞ではなく、本当にそう思う。それに、これは、周りの人も言っている。 「あ、そうだ。これ、梨央ちゃんに上げようと思って、持ってきたんだった」  亜由美は、英文字が散らしてある水色のポーチを渡した。 「これって、雅宗くんがデザインしたやつ」  AfterRainのツアーグッズだ。 「6年くらい前になるのかな。私最近使ってなくて。良かったら、使うかと思って」 「いいんですか? ありがとう!」  梨央は、大事そうにポーチを両手で持った。  テーブルに、前菜の生春巻が運ばれて来た。
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