1 響ちゃんはオバケがきらい

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1 響ちゃんはオバケがきらい

 雨が近いらしい。夕暮れの空気は、重かった。昼間のやらかしたことが頭から離れず、響は大きなため息を吐きだしながら慣れた道を歩いていた。  あと100メートルも歩けばアパートが見えてくる。帰って飼い猫のゴン太を思いっきりもふもふしたい。あのぽにょっとしたおなかをなでて甘いようなにおいを鼻腔いっぱいに吸い込めば、この暗い気分もどこかへ行くだろう。  よし、帰ろう。考えても仕方ない。  そう勢いをつけて足を踏み出した響だったが、妙な感覚を覚えて足をとめた。  電柱の影に男がいる。  薄暗い街灯で顔もよくわからないが、見たところ170センチに少し足りない少し太めのシルエットがゆらゆらと揺れている。  変質者……?  響は、ランドセルを持つ手に力をこめて歩みを進めた。電柱の横を通り過ぎる時、荒い息づかいが聞こえた。  もしかして、よっぱらい……?  緊張に心臓の音が聞こえるような気がした、その一瞬。男がぬっ、と電柱の影から響の背後に姿を現した。振り返った響は腹に力をいれて、えいっ、と思い切りランドセルをぶつけた。 「うわあっ」
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