運命のふたり

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 運命って信じる? って聞かれたらさ、どう返事する?  こないだね、F先輩に偶然会ってさ、あーそうそう、めっちゃ頭良くて留学した先輩。長期休みで帰ってきたんだって。そのF先輩にね、聞かれたんだよね。  えーなんですかそれーって、適当に返したんだけど、F先輩は、たぶんあるんだと思うって。海外で運命の相手でも見つけちゃったんですかー? って言ったらさ、F先輩黙っちゃって。違うんだよ、ちょっと深刻そうな感じだったからさ、場の空気をさ? 明るくしようと思ったんだよ。ずばり指摘してやろうなんてミリとも思ってなかったんだって。  聞いちゃだめな話だったかなって、急いで違う話題を振ろうとしたら「聞いてくれる?」って、F先輩の小さな声が聞こえたから、それはもう、神妙に頷くしかなかったよね。  高校最後の夏休みに、F先輩は友達と遊園地に遊びに行ったんだって。そこでさ、昔から知っている人を見つけたんだって。その人も友達同士で遊びに来ている様子で、向こうもこっちを見ていた。そして、二人して青ざめた。  F先輩って、ここが地元じゃないんだってさ。高校に上がる前は●県に住んでて、小学校も三回転校してるんだって。しかも九州から東北、東北から近畿、近畿からって感じでもうばらばらで、どこが地元なんて感覚も全然ないんだって。  そう、それなのにF先輩とその人は、昔からの知り合いなんだよ。学校も一度も同じだったことはないのに。ああ、前世がどうとかそんなんじゃなくてね。いつも偶然、会うんだって。  一番初めは、年一回の家族旅行のときだったらしいよ。飛行機の待合で、向かいの席に、同じ年ごろの男の子がいるなあって、そんな感じだった。小学校に上がってからも、年に一回くらいのペースで、あれ、あのときの子だなって、どこかに行ったタイミングで出会う。いつも目が合うし、お互いに同じようなことを思ってるだろうなって、こんな偶然もあるんだなあくらいに思ってたんだってさ。  中学生になって、F先輩は初めて恋人ができた。同じクラスの男の子で、告白されて、じゃあお付き合いしましょうってなったその翌日、その男の子が失踪した。ものすごくショックで、その子の親や警察からも何か知らないかって聞かれたけれど、F先輩には何も心当たりがなかった。  で、それから少しして、例の、何も知らない知り合いにまた、偶然会った。大型の本屋に参考書を買いに来ていて、そのコーナーに彼もいた。同じ本に手を伸ばしてその手が重なってーなんてことはさすがになかったみたいだけど、お互い、気づいたときには隣に立っていて、今までで一番距離が近かった。  F先輩は、思い切って声を掛けた。彼は頷いて、ずっと前から、会ってましたよねと返事が返ってきた。  一通り自己紹介をして、彼と同い年であること、今まで同じ地域に住んだことがないこと、これまでのことも全部偶然だったことを確かめた。  こんなことあるんだねって二人で笑い合って、じゃあまた偶然会いましょうなんて冗談めかして話して別れたんだって。  次にF先輩が彼に会ったのは、高校に入ってから、所属していた部活の大会でだった。また会ったねと話していると、部活仲間が何だ何だと集まってきてしまったので、何回か偶然会ったことがあるんだって説明した。「まるで運命みたいですね」って、彼の隣で、彼の後輩の女の子がにっこり笑ったのを見て、ああ、この子は彼のことが好きなのかな、とF先輩は思った。  そしてこの翌日、今度はこの女の子が神隠しにあった。中学時代のことが思い出されて、それと同時に「運命みたいですね」っていうその女の子の台詞が頭の中で巡って、F先輩はぞっとした。  もし、自分と彼が運命で結ばれていて、それを阻むものが排除されているのだとしたら?  馬鹿なことだと、とんだ妄想だとF先輩は思おうとした。でもどうしても、その考えを完全に否定することができなかった。  F先輩は、彼となるべく接触しないように努力した。部活を辞めて、彼と会った本屋へは二度と行かなかったし、彼の高校周辺にももちろん近づかなかった。そうすることで、運命を断ち切ることができるかもしれない、そう信じて、F先輩は祈るような気持ちで生活した。  で、冒頭の高校最後の夏休みに戻るんだけどさ。やっぱり、偶然にも再開しちゃうんだよね。偶然を何回重ねたら、運命って言うんだろうね?  それで、ここからが本題なんだけど。F先輩、留学先で付き合おうって告白されて、それを受けるかどうするかですごく迷ってるんだって言っててね。……ん? ああ違うよ、失踪はもう関係ないというか。  その告白してきた人っていうのは、だから。  彼の方もF先輩と同じように考えて、あえて海外の大学を選んだみたいなんだけど、留学先がバッティングするっていうね。もうここまで来たら……って感じなんじゃない?  F先輩も、彼のことを決して嫌いなわけではないらしいんだけど、運命に屈するようで嫌なんだってさ。でも、現実的に他の相手を選ぶことは難しそうだしって、すんごい悩んでたよ。なんかここまでくると、運命っていうより、宿命のふたりって感じだよね。  ねえ、君は運命って信じる?
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