6人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
高校2年のインターハイで、100m、200mのバタフライで予選落ちした後、しばらく、やる気になっていて練習に打ち込んでいた。
ただ、インターハイ後の大会にエントリーするも、タイムが伸びず、予選を通過しても、決勝ではなく、B決勝になってしまうことが続いた。
普通、オリンピックや世界水泳など国際大会は、予選、準決勝、決勝と進んでいく。
でも、インターハイやインカレの場合、準決勝はなく、代わりに予選で9位から16位までの選手はB決勝に進むことになる。
予選で上位8位までに入った選手は無条件で決勝に進む。
ひなは決勝に残ることが常連だっただけに、相当なショックを受けた。
3年生になってからのインターハイでも決勝に残れなかった。
「スランプなのか……」
ひなはため息をつく。
「もう、ダメなのかな」
ひとり呟いた。
「もう、引退しよう。大学にっても水泳はやらない」
そう決めた瞬間だった。
***************
「ん?」
ひなは目をパチパチさせた。
夢なのかリアルなのか一瞬わからなかった。
頬をパンパンと叩いて、窓から外を眺める。
「夢だったのか」
でも、夢で見たことは全て現実だった。それから、全然、良いタイムが出なくて水泳を辞めた。
「なんで、未だにあんな夢、見るんだろう」
ひなはゆっくりと起き上がり、時計を見る。
もう大学に行く時間だ。
ひなは大学1年生になっていた。大学に通い始めて、3日目。
大学ではサークル活動が活発だ。
1年生を勧誘している。
「ねぇ、ねぇ、君、水泳部だったんでしょ? また、一緒にやろうよ」
茶髪でロングヘアーの女性がひなに声をかけている。
「いや、私はもう、水泳はやらないので」
ひなは断って、その場を立ち去ろうとしたとき、女性が引き留める。
「見学だけでもさ、ねっ?」
ひなは、半ば強引に連れていかれた。
仕方なく、ひなは見学だけならいいかと水泳部を見ることにした。すると、知っている顔があり、目を丸くした。
「里奈? 里奈、この大学に入学したの?」
ひなは大会以外で、里奈に会うことはなかった。まさか、同じ大学に入学したとは。
「そう、一緒に泳ごうよ、また」
里奈はにっこり笑った。
「私はもう水泳はやらない。里奈はまだ続けるんだね。頑張って」
ひなが去っていこうとしたとき、里奈はビシッと言い放つ。
「逃げるな! 調子が悪いことだってあるよ。でも、それで水泳が嫌いになっちゃったの? 違うでしょう? 私に勝つんでしょ? だったら、勝って、私を超えてみな」
その言葉に、ひなはムカッとした。
ひなの心に火が灯る。いつも、里奈はこうやって発破をかけてくる。その度に悔しい思いをして、絶対に勝ってやると奮起していた。
忘れていた心が蘇ってきた。
里奈もひなに発破をかけて、自分を奮い立たせていたのかもしれない。
小学校の頃から、ずっと、そうやって刺激し合って泳いでいた。それが楽しかった。
そう、負けたくない。里奈にだけは。その思いが強くなって、思わず里奈に告げた。
「わかった、絶対に里奈を超えてやる! もう一度、勝負だ!!」
里奈は嬉しそうだった。
「こうでなきゃ、楽しくない」
ひなと里奈は手を握り、闘志を燃やした。
最初のコメントを投稿しよう!