目指すは日本代表での自己ベスト

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 高校2年のインターハイで、100m、200mのバタフライで予選落ちした後、しばらく、やる気になっていて練習に打ち込んでいた。  ただ、インターハイ後の大会にエントリーするも、タイムが伸びず、予選を通過しても、決勝ではなく、B決勝になってしまうことが続いた。  普通、オリンピックや世界水泳など国際大会は、予選、準決勝、決勝と進んでいく。  でも、インターハイやインカレの場合、準決勝はなく、代わりに予選で9位から16位までの選手はB決勝に進むことになる。  予選で上位8位までに入った選手は無条件で決勝に進む。  ひなは決勝に残ることが常連だっただけに、相当なショックを受けた。  3年生になってからのインターハイでも決勝に残れなかった。 「スランプなのか……」  ひなはため息をつく。 「もう、ダメなのかな」  ひとり呟いた。 「もう、引退しよう。大学にっても水泳はやらない」  そう決めた瞬間だった。 *************** 「ん?」  ひなは目をパチパチさせた。  夢なのかリアルなのか一瞬わからなかった。  頬をパンパンと叩いて、窓から外を眺める。 「夢だったのか」  でも、夢で見たことは全て現実だった。それから、全然、良いタイムが出なくて水泳を辞めた。 「なんで、未だにあんな夢、見るんだろう」  ひなはゆっくりと起き上がり、時計を見る。  もう大学に行く時間だ。  ひなは大学1年生になっていた。大学に通い始めて、3日目。  大学ではサークル活動が活発だ。  1年生を勧誘している。 「ねぇ、ねぇ、君、水泳部だったんでしょ? また、一緒にやろうよ」  茶髪でロングヘアーの女性がひなに声をかけている。 「いや、私はもう、水泳はやらないので」  ひなは断って、その場を立ち去ろうとしたとき、女性が引き留める。 「見学だけでもさ、ねっ?」  ひなは、半ば強引に連れていかれた。  仕方なく、ひなは見学だけならいいかと水泳部を見ることにした。すると、知っている顔があり、目を丸くした。 「里奈? 里奈、この大学に入学したの?」  ひなは大会以外で、里奈に会うことはなかった。まさか、同じ大学に入学したとは。 「そう、一緒に泳ごうよ、また」  里奈はにっこり笑った。 「私はもう水泳はやらない。里奈はまだ続けるんだね。頑張って」  ひなが去っていこうとしたとき、里奈はビシッと言い放つ。 「逃げるな! 調子が悪いことだってあるよ。でも、それで水泳が嫌いになっちゃったの? 違うでしょう? 私に勝つんでしょ? だったら、勝って、私を超えてみな」  その言葉に、ひなはムカッとした。  ひなの心に火が灯る。いつも、里奈はこうやって発破をかけてくる。その度に悔しい思いをして、絶対に勝ってやると奮起していた。  忘れていた心が蘇ってきた。  里奈もひなに発破をかけて、自分を奮い立たせていたのかもしれない。  小学校の頃から、ずっと、そうやって刺激し合って泳いでいた。それが楽しかった。  そう、負けたくない。里奈にだけは。その思いが強くなって、思わず里奈に告げた。 「わかった、絶対に里奈を超えてやる! もう一度、勝負だ!!」  里奈は嬉しそうだった。 「こうでなきゃ、楽しくない」  ひなと里奈は手を握り、闘志を燃やした。
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