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ひなはその組の1位だった。ただ、まだ、決勝に行けるかはわからない。
次の組には里奈がいる。里奈も当然、予選は通過してくる。そう思っていた。
でも、ひなの違和感が嫌な結果を想像させた。
「里奈、大丈夫かな」
ドキドキしながら、里奈のレースを見守る。
笛の合図でプールに飛び込む。
里奈のスタートは良かった。ただ、どうしたことか。里奈の泳ぎが思うようにできてなかった。
里奈はスローモーションで泳いでいるような感覚だった。いつもの自分ではない。どうしたのか。
里奈のバタフライは、しなるようなキックが特徴で、胴体を柔らかくクネクネさせているような泳ぎ。
泳ぎが硬い。
100mのターン。里奈は徐々にスピードが落ちていく。
まずい、どんどん差が広がっていく。
その焦りから里奈は無駄な力が入ってしまい、ますますタイムを落とすことになった。
ラスト50mのターン。里奈としては、ギアを上げていきたい。
ギアが入らない。里奈は更に遅れていき、結果、この組の8位で予選レースを終えた。
すべての予選レースが終わり、決勝とB決勝に進む選手の名前が発表される。
ひなは決勝に進んだが、里奈は残念ながらB決勝にも行けなかった。
その結果を見て、里奈は膝をついて涙を流した。
「なんで、あんな泳ぎになっちゃったんだろう……これじゃ、まだまだだ」
ひなは里奈を抱きしめた。
「悔しい! なんで、あんたが行って、私が行けないの!?」
里奈はひなにぶちまけた。
ひなはため息をついた。里奈がこうでは決勝に集中できない。
「悔しかったら、這い上がってこい。あんたはずっと勝ち続けてきたから、この気持ちわからなかったでしょう? どんなに強い人もいつかは、こうやって負ける日がくるんだよ!」
里奈に喝を入れ直した。このまま、落ち込むだけだったら、ひなも調子が狂う。
「私は絶対に負けないんだ!」
里奈は、ひなを押し倒しそうなくらいの勢いで、叫びながら肩を掴む。
「もう、だったら、こんなところで落ち込んでいる暇はないよ!」
ひなはそう言って、決勝の準備へと向かう。
里奈はひなの言葉に腹が立った。気持ちなんかわかるはずがない。そう思った瞬間に高校の時のことを思い出した。
高校2年の時、ひなは予選落ちして相当なショックを受けていた。今、この状況はひなと同じ。
ひなの話だと、大学では水泳を辞めると言っていた。あれ以来、ずっといいタイムが出ないから、もう終わりなのかと感じて。
それでも、ひなを誘って。また、大学で一緒に練習して、また、ひなは成長した。
ならば、今回はダメだったけれど、這い上がって、タイムを伸ばすことはできるはず。
「今度は絶対にひなに負けない」
里奈もひなに刺激を受けて、更に闘志を燃やした。
「とりあえず、ひなの決勝、見届けてやる」
里奈は急いで着替えて、観客席へと向かう。
里奈が落ち込んでいる間に、200mバタフライ決勝の時間が近づいていた。
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