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オギャー、オギャー、と、床に散らばった服の上で、赤子が泣いている。
「ふふ、威勢のいい鳴き声だね」
少女は目の前の赤子に手を伸ばした。今の彼女の表情に、接客時のような笑顔はない。今の状況を楽しんでいるような、馬鹿にしているような、相手を見下している表情。
この赤子は先ほどまで若さに固執していた女性客だ。無条件で愛されたいと願っていた。だから、少女は手を貸してやったのだ。
「赤子はただ存在するだけで慈しんでもらえるだろう? 君の望みにピッタリじゃないか」
少女は散らばった服ごと赤子を抱きかかえると、ソファの上に寝かせた。
そしてスマホを取り出し、どこかへと電話をかける。
「もしもし? 私だ。ふふ、そう警戒するなよ。悪い話じゃないさ。たった今、良い商品が入荷してね。持て余しているんだ。明日までに引き取ってもらえるなら安くするよ」
最後に飲ませた薬の代金が回収できないのは残念だが、この商品は高値で売れるだろう。
今から来るという相手の返答に、頭の中で算盤を弾いた少女は満足げに微笑んだ。
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