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夕方の商店街は苦手だ。
学校帰りと思われる、制服姿の少女たち。
子どもの手をひいて歩く母親。
家族と食べるのであろう食材の買い出しをしている若い女性。
どの女性も幸せそうに見える。それに比べて、家に帰っても誰も迎えてくれない、独り身の私の惨めさと言ったら。
人通りの多い道を避け、人気のない路地裏を歩く。この薄暗い雰囲気が私にはお似合いだと思った。
「そこのご婦人、何だか浮かない顔をしていますね」
突然、背後から声がした。
周りには人がいない。私に声をかけたのだろう。
振り向くと、高校生くらいの少女が立っていた。
小柄だが、存在感がある。モデルや女優と言われても納得してしまう程の美少女。アーモンド形の大きな目が印象的だ。
リボンでひとつに結ばれた、長く豊かな髪が揺れている。
「何か用?」
私は警戒心を滲ませた声で答える。
警戒されることに慣れているのか、少女は作り物のように美しい笑顔で答える。
「そんな警戒なさらないでくださいな。私はそこの店の店員です」
少女が声を落として囁く。
「あなたに、ぜひオススメしたい商品がございまして」
「商品? あいにく、特に困っていることはないのだけど」
「若返りの薬です」
若返りと聞いて、警戒心より好奇心の方が勝ってしまった。
私が今、喉から手が出るほどに欲しているもの。
少女の言葉に胡散臭さを感じたが、話を聞くだけなら、と店について行った。
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