魔女の薬

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 家に帰って、少女からもらった小瓶を眺める。  瓶の中で紫色の液体がトプン、と揺れた。  葡萄ジュースよりも薄く、透明感のある紫色。まるでアメジストを溶かしたような、綺麗な色。  今度は蓋を開けて匂いを嗅いでみる。甘い匂いだが、花や果実の甘さとは違う。お菓子に使われている人工甘味料のような、独特な甘い匂いだ。  毒ではなさそうだし、いいか。  私はグイっと小瓶の中身を飲み干した。  匂いそのままの、安いお菓子の味が口の中に残る。舌が痺れるとか喉に違和感があるとか、そういったことは起きなかった。  1杯で充分な効果が得られると聞いたが、特に期待はしていない。  瓶を見ようと視線を手元に落とすと。 「え?」  自分の手に違和感がある。  肌の色が明るくなっている気がする。肌のきめが細やかになっていて、手のシワもほとんどない。  まさか、と思って慌てて洗面所の鏡を覗くと、そこには40歳の頃の私が映っていた。 「嘘でしょ……?」  顔に手を当てる。いつものカサカサした肌とは違う手触り。若い子には負けるけれど、それでも今さっきまでの肌とは違う。  私は、胸の高鳴りが抑えきれなかった。目の前が明るくなったような、天にも昇る気持ちだ。  あの少女の言っていることは真実で、この薬は本物だったのだ。  こんな奇跡的なものが、この世の中にあったなんて。  たった1杯飲んだだけで10歳くらい若返っている。    この薬をもっと飲めば、私は失った人生を取り戻せるかもしれない。  私は、貯金をはたいても、何をしても、この薬を購入しようと心に決めた。
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