22人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
巫女として糸を紡ぐことが、私の運命だった。
けれど自分で決めていいのだと、彼は言う。
自分の手に運命を取り戻した彼はとてもまぶしく見えた。
――私も、そんな風に生きられるだろうか。
もし。もし、自分の意思で決められるのならば。
「……巫女を、やめたい。きみのそばにいたい」
震えた声しか出ないけれど、彼はしっかりとうなずいてくれた。
敏感に感じ取った糸たちが、私を逃がすまいと絡みつく。彼は苛立たしげに糸をつかんだ。
「あんたたちも、自分の運命くらい、自分でどうにかしてくださいよ。いつまで巫女さまに甘えてるんですか」
力任せに引っ張っても糸が取れることはないけれど、彼は諦めない。ひとは弱いものだと思っていたのに、彼を見ていると、決めつけていたことが恥ずかしくなる。
私だって、決められた巫女の運命に抵抗しなかった。でもそれでは、つまらない。彼のように抗い、生きていられたらと思ってしまう。
もう嫌だ、この生活は。
じんわりと手に熱がこもる。糸を紡ぐときの光が手に宿り、それは段々と目に痛いほどの光となる。まとわりついていた糸を握ると、熱に灼かれるように、糸は断ち切られた。
少年が私を見て、「どうぞ、思いきり」と促す。こくりと頷いた。
糸が泣いている。ひとりでは生きていけぬと。
私は首を振った。
「ひとの子は強い。私が思うより、ずっと。きみたちも、自分の足で自分の運命を歩んでいけるだけの力があるはずです」
強く願うほど、手の光はまばゆさを増す。その光に後押しされた。
「お返しします、きみたちの糸。これより先は、己の力で生きるといい」
光る手を繭に押し付ければ、赤い糸たちは呼応して輝き、弾けていく。持ち主のもとへと帰っていくのだ。それはやはり、泣いているように見えた。けれど私も、もう迷わない。
彼らのためというより、自分のために。
「私も、私の意思で生きる。自由になる。だからごめんなさい、ここにはもう、だれの運命も残さない。全員帰っていただきます!」
私がそうすると決めたから。誰にも邪魔はさせない。
目を開けていられないほどの光が放たれ、繭を貫く。
岩屋にはじめて白の世界が満ちた。
最初のコメントを投稿しよう!