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「きみは、そういう運命なんでしょうか」
芋虫のような彼を救ってやる。もう慣れたものだった。
「いつもいつも、岩屋にやって来る」
今度の少年は、貧しい身なりをしていた。あいかわらずの芋虫ぶり。
「べつに、運命じゃないですよ。ここに来るって決めたのは、ぼくですもん」
私は糸車を回す作業に戻って、「どういうことですか」と問う。
「だって運命って、自分の意思に関係なく、神さまが決めたものなんでしょう。ぼく、ひとの言いなりになりたくありません」
「この場合は、ひとではなく、神の言いなりでは」
「神さまでも嫌です」
「なるほど」
「あと、岩屋に来てるんじゃなくて、巫女さまに会いに来てるんですよ」
私はすこし、無言になった。カタ、と糸車も止まる。
「それはどうも。ほら、今日はおかえりなさい。暗くなれば賊が出ます。あと夜遊びは身体に毒ですからね。よく寝て、よくお食べなさい」
不満そうな少年を追い出して、私は糸車に向き直る。
私には、睡眠は必要ない。食事もいらない。ただ運命の糸を紡ぐのみ。ただ、この繭を――。
「味気ないか、運命に操られる生き方は」
運命を決められたうえ、勝手にねじれて絡まって、巫女の手で紡がれることでしか救われないことは、哀れなのかもしれない。ここに糸がある限り、糸の持ち主がどうあがいたところで、自分の運命は変えられない。紡げるのは、私しかいないのだから。
ならば糸を断ち切り、自身で運命を決められるようになったほうが、ひとの子にとってはいいのだろうか。
そのとき、ふわりと、繭からくず糸たちが降ってきた。はやく紡げ、と言わんばかりに。糸たちは、少年とは違う考えらしい。
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