紡ぎの巫女

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 カタカタカタ。  ただひたすら、糸車の音がする。繭の中には、あの糸車も閉じ込められていた。私は延々と糸車を回し続けた。そのうち繭もほぐれて、外に出られるのではと思ったから。  でも駄目だ。糸はつぎつぎ絡みつく。哀れな繭に終わりはない。 「また、生まれてきたね」  久しぶりに見つけた彼の糸。もう彼が岩屋に来たって、繭の中にいる私には会えないけれど。  今度はどんな名前をつけられたのだろう。  芋虫になってはいないだろうか。  私の姿が見えなければ、岩屋の奥にまでは来ないだろうから、糸に絡みつかれることもないだろう。もう私には、彼を救えないのだし、岩屋には来ないほうがいい。  いや、本当は来てほしい。話がしたい。  そう思いながら、何年も何年も、糸を紡ぎ続けた。彼の糸が切れるまでは、私はすこしだけ救われた心地になる。長く生きてほしい。  カタカタカタ、カタ。  糸車を止めたのは、頬を這う熱に気づいたからだ。手の甲でぬぐって、眼を閉じる。寂しい。ひとりは寂しい。ここから出たい。  それでももう一度、糸車を回した。  それが私の運命だから。  何年も、糸を紡いだ。紡いで、紡いで、紡ぎ続けて。  カタカタカタ――……、カタ。  つぎに手が止まったのは、 「巫女さま」  その声が聞こえたからだ。
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