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「赤い火に焼き尽くされるのは」㊴
心が崩れ落ちないように、胸の前で両手を組んで叫んだ。
自分の手と手を組み合わせて、わたしの心の形を保つ。
どこかで堰が切れて、涙があふれ出てくる。
「和香…」
泣くわたしに優介の手が触れようとする。
「-触らないで」
自分に近づく手を冷たい声で拒絶した。
「奧さんのいる人が、わたしに触ったらダメでしょう」
優介はわたしの指摘にハッとした表情をして、伸ばした手を引っ込めた。
泣いたり困っている人を近くで見かけたら、放っておけないところ変わっていない。
だけどね、もう結婚してるんだから、誰かに関わるのはやめた方が良いよ。
水野さんの前で異性に声をかける姿を見せたら、きっと不安になると思うよ。
わたしは優介のそういうところが好きだったけど…。
泣いたり困っている人を見ても大半の人が知らんふりするのは、面倒だから、厄介なことに巻き込まれてたくないから。
後は手を差し伸べても、自分が助けてあげられる力がないと分かっているから。
助けてやれないのに半端に手を差し伸べるのは、かえって相手を傷つけることになる。
だから、視界に入っても切り捨てる。
優介にも切り捨てる冷たさがあれば良かったのに。
わたしから心が離れたら、すぐに言葉と行動で優介の側から切る冷たさがあれば良かったのに。
「優介はわたしに許してって言ったけど、わたしはあなたを最後まで許せない」
「あなたもわたしを許さなくていい」
「わたしはあなたを呪ったことを謝らない」
「けど、水野さんと赤ちゃんまで巻き込んでしまったのは…ごめんなさい」
他者を呪う禁忌の行いを選んだ人間の覚悟として、わたしは優介に謝罪することはしない。
彼の妻子まで累が及ぶ危険な目に遭わせたことだけは、己が罪として優介に謝らなければと思った。
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