めぐり合わせ

5/6
前へ
/6ページ
次へ
 水道が止まった。振り向いた紬は、簡単に拭いただけの少し濡れた手で、抱きしめ返してくれた。ずっと一緒にいたい。本当に大切な人だ。  テーブルの上で、スマホの通知音が鳴った。  名残惜しく身体が剥がされた。少し残念に思いつつ僕もテーブルへ向かった。今度こそお母さんからかな。  紬がスマホを眺めている様子を僕が眺めている。そんなことあるわけないよな、と思いつつもどこか期待してしまう自分がいる。 「え?」  驚く紬に僕まで驚く。 「友永(ともなが)さん……だって。え、なんで」  困惑している紬とは反対に、僕は()()()が現実となって、湧きあがる感情に興奮している。  友永弦、僕の名前だ。 「息子さん、げんくんだって……え? 弦のことなの?」 「うん、それ僕だ!」 「えー! 弦は知ってたの?」 「僕も今知ったよ! まさかこんなことが本当にあるなんて!」  家にあるアルバムをめくっていた時、見知らぬ女の子と一緒に写っている写真が何枚かあった。母さんに聞いたら、子育てサークルで仲良くなったつーちゃんだと聞いた。でも、当時二歳、記憶はもうなかった。  成長とともに記憶はさらに薄れて、思い出すこともなくなった。そして母さんは僕が中一の時に乳癌で亡くなった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加