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水道が止まった。振り向いた紬は、簡単に拭いただけの少し濡れた手で、抱きしめ返してくれた。ずっと一緒にいたい。本当に大切な人だ。
テーブルの上で、スマホの通知音が鳴った。
名残惜しく身体が剥がされた。少し残念に思いつつ僕もテーブルへ向かった。今度こそお母さんからかな。
紬がスマホを眺めている様子を僕が眺めている。そんなことあるわけないよな、と思いつつもどこか期待してしまう自分がいる。
「え?」
驚く紬に僕まで驚く。
「友永さん……だって。え、なんで」
困惑している紬とは反対に、僕はまさかが現実となって、湧きあがる感情に興奮している。
友永弦、僕の名前だ。
「息子さん、げんくんだって……え? 弦のことなの?」
「うん、それ僕だ!」
「えー! 弦は知ってたの?」
「僕も今知ったよ! まさかこんなことが本当にあるなんて!」
家にあるアルバムをめくっていた時、見知らぬ女の子と一緒に写っている写真が何枚かあった。母さんに聞いたら、子育てサークルで仲良くなったつーちゃんだと聞いた。でも、当時二歳、記憶はもうなかった。
成長とともに記憶はさらに薄れて、思い出すこともなくなった。そして母さんは僕が中一の時に乳癌で亡くなった。
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