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幸福値維持法
小花ユウトは、人生で最も屈辱的な気分だった。ある日、急に幸福な人生を送っていないと診断されたのだ。惨めな気持ちになっても、仕方がない。
集団幸福摂取会場で、ユウトはスマホに届いた通知を読み返す。
『貴方の幸福は基準値を大きく下回っています。至急、指定の施設にて幸福を摂取してください』
何度読み返しても同じ文言が、彼のプライドをひどく傷つけた。
「サングラスとマスクを外していただいても、よろしいですか?」
ユウトは女性スタッフに促され、無機質な診察室の柔らかい診察台に座る。彼女に従い、マスクとサングラスを外す。真っ白な壁や天井に照明が反射し、まぶしくて目を細めた。
無機質な白い診察室には、並んだ診察台に利用者が座っている。背もたれに体を預けて天井を見上げる彼らが、ひどく間抜けに見えた。
二十人はいるだろうか。年寄りから若者まで、幸福不足と判断された人たちだ。
「生体認証を致しますので、目を閉じないでください。――幸福増幅剤の使用は初めてですね。本人確認が取れました。薬を摂取してください」
ペン型の機器で両目を照らし、彼女はタブレットに視線を落とす。画面にユウトの情報が表示され、彼女の後ろにいたスタッフがユウトに紙コップを渡した。
コップの中には、一粒の赤いカプセル錠剤が入っている。ユウトが錠剤を口に含むと、男性スタッフがコップに水を注いだ。
「飲み終えたら口を開けてください」
彼女に従い、ユウトは錠剤をのみこんで口を開けて見せた。
「舌を上げてください」
舌を動かすと、彼女は確認して背後にいるスタッフに目配せした。
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